過去のシンポジウム

第19回 高遠・分子細胞生物学シンポジウムは、おかげさまで盛会のうちに終了いたしました。
たくさんのご参加をいただき、誠にありがとうございました。

今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

開催概要

タイトル 第19回  高遠・分子生物学シンポジウム
テーマ シグナルと細胞組織調節
開催期間 2007年08月23日(木)~24日(金)
開催場所 高遠さくらホテル

プログラム

2007年8月23-24日

転写制御機構のエピゲノム解析
油谷 浩幸 [東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス部門]
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 2003年のヒトゲノム配列決定およびアレイ解析技術の進歩により、ヒトをはじめとする高等生物のゲノム配列を数枚のアレイ上に合成することが実現し、従来個別遺伝子座位について行われた転写制御研究をゲノムスケールで行うことが可能となった。クロマチン免疫沈降(ChIP)、メチル化DNA免疫沈降(MeDIP)といった手法により標的DNA配列を濃縮、増幅、標識した後にタイリングアレイに反応させることにより、転写因子が直接に標的とする遺伝子群(シストローム)やDNAメチル化領域を同定することが出来る。すなわち、クロマチンの活性化、染色体情報の読み出し(転写)の調節に重要とされる転写因子複合体のゲノム配列上での局在、ヒストン修飾やDNAメチル化などのエピジェネティックな修飾を網羅的に検出出来るようになった。
 新たなエピゲノム解析技法の実例として、NIH3T3-L1細胞から脂肪細胞への分化誘導系において、ヘテロダイマーを形成してDNAに結合するPPARγとRXRαのChIP-chip解析について紹介する。また、DNAメチル化はかなり安定的に維持される修飾であり、種々の細胞系譜へのコミットメントとしても重要と考えられていることから、ES細胞からの外胚葉系への分化時においてのメチル化プロファイルの変動についても議論したい。

【参考文献】
 Kaneshiro K, Tsutsumi S, Tsuji S, Shirahige K, Aburatani H. An Integrated Map of p53-Binding Sites and Histone Modification in the Human ENCODE Regions. Genomics 89(2):178-88, 2007 [Epub 2006 Nov 3]
 Hayashi H, Nagae G, Tsutsumi S, Kaneshiro K, Kozaki T, Kaneda A, Sugisaki H, Aburatani H. High-resolution mapping of DNA methylation in human genome using oligonucleotide tiling array. Hum Genet. 120(5):701-11, 2007 [Sep 26, 2006; Epub ahead of print]

ミトコンドリアタンパク質の交通とその制御
遠藤 斗志也 [名古屋大学大学院 理学研究科 物質理学専攻 生物科学研究室]
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ミトコンドリアは外膜と内膜の2枚の生体膜に囲まれたオルガネラで,酸化的リン酸化によるATP産生,アミノ酸や脂肪酸代謝,ヘム合成など多様な機能を担う。最近のプロテオーム解析によれば,1000〜1500種類のタンパク質から構成されるが,ミトコンドリア内で合成されるのは10種類あまりで,それ以外の大部分のミトコンドリアタンパク質は核ゲノムにコードされ,サイトゾルで合成された後,ミトコンドリアに帰ってくる。

膨大なミトコンドリアタンパク質の「交通」を管制するのは,外膜と内膜の膜タンパク質複合体,トランスロケータ(膜透過装置)である1-3。トランスロケータはミトコンドリアタンパク質自身に書き込まれた「ミトコンドリア行きシグナル」および,ミトコンドリア内各区画(外膜,膜間部,内膜,マトリクス)への仕分けシグナルを読み取るレセプター機能,ミトコンドリア外膜と内膜の疎水的透過障壁を通過させるためのチャネル機能,ミトコンドリアタンパク質の高次構造をほどいて,濃度勾配に逆らって能動的に膜透過させるためのモータ機能を持つ,分子機械である。近年ミトコンドリア外膜と内膜に複数のトランスロケータが同定され,それらが巧みに連携して,膨大な種類のミトコンドリアタンパク質を正確に仕分けていることが分かってきた。さらに,これまでサイトゾルと同様還元的環境にあると思われていたミトコンドリア内で膜透過と共役してジスルフィド結合形成を行う酸化還元ネットワークの存在,タンパク質のミトコンドリア膜透過に伴うイオンの漏出を防ぐゲート機構,βバレル型膜タンパク質を組み立てるための足場の存在,トランスロケータそのもののメンテナンス機構の存在など,ミトコンドリアタンパク質の交通に関連して新たな発見が相次いでいる。

それでは,トランスロケータそのものはどうやって作られるのか?実はトランスロケータ構成因子もすべて既存のトランスロケータを利用してミトコンドリアに移行し,既存のミトコンドリアタンパク質の助けを借りて組み立てられる。すなわちトランスロケータも,ミトコンドリア構造も,すべてde novoに作られることはなく,既存の構造に基づいて作られる。したがってミトコンドリアは,システムがシステムを作る,生命の基本的属性をもつミニマルモデルということができる。

1. T. Endo, H. Yamamoto, and M. Esaki. (2003) Functional cooperation and separation of translocators in protein import into mitochondria, the double-membrane bounded organelles. J. Cell Sci. 116, 3259-3267.
2. M. Bohnert, N. Pfanner, and M. van der Laan (2007) A dynamic machinery for import of mitochondrial precursor proteins. FEBS Lett. 581, 2802-2810.
3. W. Neupert and J.M. Herrmann (2007) Translocation of proteins into mitochondria. Annu. Rev. Biochem. 76, 723-349

高等植物の生殖成長開始(花成)を調節する長距離シグナル
荒木 崇 [京都大学大学院 生命科学研究科]
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 植物は、発芽してひとたび根を張った場所からは移動できない。そのため、植物は多様な環境情報を積極的に捉えて、外環境に柔軟に対応して発芽後の発生(後胚発生)をおこなう。有性生殖のために花芽形成を開始するタイミングの決定は、植物の後胚発生過程の調節の中でも特に重要なもののひとつであり、植物は、温度(長期間の低温)と日長を手がかりにして、季節の進行をいわば先読みして花芽形成の開始(花成)のタイミングを決めている。
 花成のタイミングを決定する際に最も重要な環境情報は日長(光周期)であることが知られている。植物は葉の細胞が持つ光受容体(フィトクロム・クリプトクロム)と概日時計の機能によって日長を計り、何らかの長距離作用性のシグナルを葉で産生すると考えられてきた。「フロリゲン」と名付けられたこの長距離シグナルは、維管束の中の篩管(同化産物などの輸送経路)を通って、茎頂分裂組織と呼ばれる幹細胞集団を含む茎の先端部に運ばれ、そこで、花芽形成を引き起こすと信じられてきたが、その実体は永く謎であった。
 われわれの研究室では、アブラナ科の一年生草本植物シロイヌナズナを用いて花成の調節に関わる遺伝子群の研究を進める中で、植物で広く保存された花成促進遺伝子FLOWERING LOCUS T (FT)の産物(蛋白質あるいはmRNA)が長距離シグナル「フロリゲン」の実体であることを明らかにした。われわれの研究室を含む複数のグループの最近の研究から、輸送されるのは、mRNAではなく蛋白質であることが示され、FT蛋白質の長距離輸送の機構と蛋白質の長距離輸送を介した個体内シグナル伝達の一般性に関心が集まっている。


Kobayashi et al. (1999) Science 286(5446), 1960-1962.
Araki (2001) Curr. Opin. Plant Biol. 4(1), 63-68.
Yamaguchi et al. (2005) Plant Cell Physiol. 46(8), 1175-1189.
Abe et al. (2005) Science 309(5737), 1052-1056.
Ikeda et al. (2007) Plant Cell Physiol. 48(2), 205-220.

初期発生における細胞ダイナミクスとその制御機構
杉本 亜砂子 [理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター 発生ゲノミクス研究チーム]
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細胞は分裂・移動・形態変化を繰り返すことによって生物のかたちを作り上げていく。細胞のこのような動的な変化を引き起こすのに中心的な役割を果たしているのが細胞骨格、特に微小管とアクチンフィラメントである。微小管やアクチンフィラメントは、それぞれチューブリン・アクチン分子が重合することによって繊維状構造を形成しており、その繊維状構造が構築する繊維束や網目状構造が動的に変化することで細胞および細胞集団の動態に影響をおよぼしている。つまり、細胞骨格の動態は、分子レベル(蛋白質分子の重合・脱重合)、細胞レベル(細胞骨格繊維の集合体の構築)、個体レベル(細胞集団における協調的なふるまい)という多段階の制御を受けている。これまでの細胞骨格動態の研究は分子レベル・細胞レベルの研究が主流であり、個体発生における細胞骨格制御機構については未解明の部分が多い。われわれは線虫C. elegansの初期胚をモデル系として、ゲノム情報とライブイメージングを駆使することにより、個体レベルにおける細胞骨格制御を担う遺伝子ネットワークを理解することを目指している。本講演ではわれわれが最近明らかにした、(1) γ-チューブリンおよびAurora Aキナーゼがそれぞれ関与する、紡錘体微小管ダイナミクスの二種類の制御メカニズムとその細胞分裂進行における使い分け、(2) 二つのRhoファミリーG蛋白質が段階的にアクチン骨格系を制御することによる受精卵の極性化メカニズム、を中心に紹介する。さらに、初期発生の4次元イメージング解析のためのツール開発についても議論したい。

参考文献
1. Motegi, F., Velarde, N.V., Piano, F., and Sugimoto, A. (2006). Two phases of astral microtubule activity during cytokinesis in C. elegans embryos. Dev Cell 10, 509-520.
2. Motegi, F., and Sugimoto, A. (2006). Sequential functioning of the ECT-2 RhoGEF, RHO-1 and CDC-42 establishes cell polarity in Caenorhabditis elegans embryos. Nat Cell Biol 8, 978-985.
3. Sugimoto, A. (2004). High-throughput RNAi in Caenorhabditis elegans: genome-wide screens and functional genomics. Differentiation 72, 81-91.

破骨細胞分化シグナルと骨免疫学
高柳 広 [東京医科歯科大学大学院 分子情報伝達学]
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 破骨細胞による骨吸収の活性化は、骨粗鬆症や関節リウマチなどにおける病的骨吸収の原因であるため、破骨細胞の分化・活性化のメカニズムを明らかにすることは、生理的な骨代謝を理解するだけでなく、骨疾患の新たな治療法を確立するために非常に重要な意義をもつ。われわれは、免疫系による骨代謝制御に注目し、「骨免疫学」と呼ばれる境界領域を探索してきた(1)
 関節リウマチでは、炎症組織に浸潤したヘルパーT細胞の活性化が破骨細胞を誘導することで骨破壊をきたす。T細胞は破骨細胞分化因子RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)を発現して破骨細胞分化を誘導する能力を有するが、IFN-γがその作用を打ち消し、多くの場合、破骨細胞分化抑制的に作用する(2)。しかし、炎症性骨破壊の病態においては、T細胞の活性化が骨吸収の亢進を引き起こすため、どのようなT細胞がどんなメカニズムで骨破壊を誘導するのかを明らかにすることが重要な課題となっていた。最近、ヘルパーT細胞の中で、Th17細胞のみが、破骨細胞分化に促進的であることがわかった。Th17細胞がT細胞活性化と骨破壊を結びつける破骨細胞誘導性T細胞サブセットであることが明らかになった(3)
 RANKLは受容体RANKに結合すると、破骨細胞分化のマスター転写因子nuclear factor of activated T cells c1 (NFATc1)を誘導する(4)。NFATの活性化に必要なカルシウムシグナルとカルシニューリンの活性化には、RANK以外に免疫グロブリン様受容体からの共刺激シグナルが重要な役割を果たす(5)。免疫グロブリン様受容体は、ITAMモチーフをもったアダプター分子と会合し、Sykファミリーのチロシンキナーゼを介してPLCγを活性化し、カルシウムシグナルを活性化する。カルシウムシグナルを媒介するカルモジュリン結合タンパクとしてカルシニューリンと並んで重要なタンパクであるCa2+/calmodulin-dependent kinase (CaMK)とその下流で活性化される転写因子CREBも破骨細胞の重要な制御因子である(6)。このような破骨細胞特異的なシグナル伝達機構をさらに解明することが、今後の新しい治療戦略に道を開くと考えられる。


1. H. Takayanagi, Nat Rev Immunol 7, 292 (2007).
2. H. Takayanagi et al., Nature 408, 600 (2000).
3. K. Sato et al., J Exp Med 203, 2673 (2006).
4. H. Takayanagi et al., Dev Cell 3, 889 (2002).
5. T. Koga et al., Nature 428, 758 (2004).
6. K. Sato et al., Nat Med 12, 1410 (2006).

GTP結合タンパク質の生理機能 —Biochemistry and My Life —
上代 淑人 [京都大学大学院 医学研究科 先端領域融合医学研究機構]
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 GTP結合タンパク質はGTP/GDPと結合しGTP水解活性をもつ、一群のタンパク質スーパーファミリーの総称である。タンパク質の生合成反応においては、その開始、伸長、および終結の各過程に特異的に関与するGTP結合タンパク質が存在している。また、細胞内シグナル伝達系においては、ホルモン、神経伝達物質、および感覚刺激などに対するレセプター(7回膜貫通型レセプター)と共役し、シグナルの転換体(トランスデューサー)として機能している多数の三量体GTP結合タンパク質(Gタンパク質)が存在している。一方、Rasタンパク質で代表される低分子量単量体GTP結合タンパク質(Rasスーパーファミリー)には、50種類以上の分子種の存在が知らせているが、それらは細胞の増殖と分化、運動と形態の維持、およびタンパク質の細胞内輸送などの多彩な生理機能を担っている。
 われわれは、まず最初にタンパク質生合成反応の分子機構、特にタンパク質生合成反応におけるGTPの役割に焦点をあてて研究を行った。その結果、伸長因子EF-Tu, EF-Gのコンフォメーション(および反応性)がGTP/GDPの結合にともなって質的、かつ可逆的に転換される事実が明らかになった。われわれは、これに基づいてヌクレチド結合タンパク質の他の生体高分子に対する反応性が、リガンドのリン酸エネルギー準位(phosphate potential)によって質的、かつ可逆的に転換されるとういモデルを提唱した。このモデルはその当時は極めてユニークなものであったが、現在では広く、一般的に容認され、様々なGTPおよびATP利用系において広く、普遍的に共通のものとして認識されている。すなわちGTP結合タンパク質はGTPの結合にともなって活性型となり、特異的にターゲット分子と結合してこれらを活性化する。そのあとで、結合GTPの分解がおこり、タンパク質はもとのGDPと結合した不活性型に復帰する。活性化は、結合GDPの外部のGTPとの交換によって行われ、不活性化は結合GTPの水解によって行われる。それぞれの反応を触媒するタンパク質因子として、特異的なグァニンヌクレオチド交換因子(gnanine nucleotide exchange factor, GEF)およびGTPase活性化因子(guanine nucleotide activating protein, GAP)の存在が知られている。細胞内には、数多くのGTP(ATP)結合タンパク質が存在していて、それらは生体高分子生合成における分子認識に関与し、細胞内シグナル伝達系の分子スイッチとして機能している。また、生体運動、タンパク質フォールディング、細胞の運動と形態変化、細胞内のタンパク質輸送、核・細胞質間輸送等におけるエネルギー転換系で働いている。これらのすべての反応において用いられている反応機構は、もともとタンパク質生合成系でわれわれにより提唱された反応機構と本質的に類似のものである。

遺伝学的研究から明らかになった多彩なカスパーゼの生体機能
三浦 正幸 [東京大学大学院 薬学系研究科 遺伝学教室]
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 プログラム細胞死(アポトーシス)研究は、モデル動物である線虫を用いた遺伝学的な研究からブレークスルーがもたらされた。その研究から線虫におけるアポトーシス実行は細胞内のカスパーゼと呼ばれる蛋白質分解酵素CED-3の活性化によってなされることが示された。そしてCED-3相同分子がほ乳類にも存在しアポトーシス制御に関与することを示したが、このとき明らかにした分子はインターロイキン1変換酵素(後にカスパーゼ1と命名)であり、この分子は炎症反応に重要な働きをすることに加えアポトーシス制御にも深く関わることが明らかになったのである1)。その後、カスパーゼは分子ファミリーを形成し様々な刺激によって活性化することでアポトーシスを実行する中心分子であることが明らかにされた。私たちはカスパーゼ1がほ乳類においては細胞死のみならず炎症反応といった免疫系との接点を持つことに注目し、カスパーゼがアポトーシス以外の生理機能をもつことに興味を抱いていた。その後、私たちは遺伝学的な研究に優れたショウジョウバエを用いてカスパーゼの生理機能に関する研究を行ってきたが、その結果としてカスパーゼは哺乳類での炎症反応に関わる機能に加え、細胞増殖2)、分化3)、移動4)といったアポトーシス以外の様々な生理機能を果たすことが明らかになってきた5)。そして様々な生理機能は段階的なカスパーゼ活性化によってなされることを明らかにした6)。本講演では遺伝学的な研究から明らかにされたカスパーゼの生体機能とその調節に関して、私たちの研究を中心に紹介したい。

【文献】
1) Miura, M., Zhu, H., Rotello, R., Hartweig, E. A., and Yuan, J.: Induction of apoptosis in fibroblasts by IL-1-β converting enzyme, a mammalian homolog of the C. elegans cell death gene ced-3. Cell 75, 653-660, 1993
2) Kondo, S., Senoo-Matsuda, N., Hiromi, Y., and Miura, M.: Dronc coordinates cell death and compensatory proliferation. Mol. Cell. Biol. 26, 7258-7268, 2006.
3) Kanuka, H., Kuranaga, E., Takemoto, K., Hiratou, T., Okano, H., and Miura, M.: Drosophila caspase transduces Shaggy/GSK-3β kinase activity in neural precuorsor development. EMBO J. 24, 3793-3806, 2005
4) Oshima, K., Takeda, M., Kuranaga, E., Ueda, R., Aigaki, T., Miura, M., and Hayashi, S.:IKK regulates F actin assembly and interacts with Drosophila IAP1 in cellular morphogenesis. Current Biol. 16, 1531-1537, 2006
5) Kuranaga, E., and Miura, M.: Nonapoptotic functions of caspases: caspases as regulatory molecules for immunity and cell-fate determination. Trends Cell Biol. 17, 135-144, 2007
6) Kuranaga, E., Kanuka, H., Tonoki, A., Takemoto, K., Tomioka, T., Kobayashi, M., Hayashi, S., and Miura, M.: Drosophila IKK-related kinase regulates nonapoptotic function of caspases via degradation of IAPs. Cell 126, 583-596, 2006

血管リモデリングの分子機構
高倉 伸幸 [大阪大学微生物病研究所 情報伝達分野]
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 血管はその最も内腔を一層に覆う血管内皮細胞に、その外側から壁細胞と総称される血管平滑筋細胞やペリサイトが裏打ちして、安定した構造となる。内皮細胞と壁細胞の接着や解離の現象が、血管の成熟化や既存の血管からの新規血管分枝の発芽機構に重要な役割を果たす。血管は成熟化することにより、血管透過性を制御し、また種々の血管内環境因子の変化に応じて、内皮細胞は種々の接着因子の発現を変化させ、白血球の接着や組織内へのすみやかな炎症細胞の移動を許容して、炎症の沈静化を図る。このようなイベントは、血管内皮細胞に発現して機能するTie2受容体に対し、壁細胞から分泌されるその結合因子であるアンジオポエチンー1や血管内皮細胞から分泌されるアンジオポエチンー2が重要な役割を果たす。アンジオポエチンー1はTie2を活性化して、内皮細胞と壁細胞の接着により血管構造の安定化と透過性の抑制に機能する。またアンジオポエチンー2は壁細胞と内皮細胞の接着を抑制して、新規血管分枝の発芽を誘導するとともに、内皮細胞上の白血球接着因子の発現を制御して、炎症細胞の浸潤を誘導する。
 我々はもとより発生的に近縁関係にある血液細胞と血管系細胞の細胞間相互作用の解析から、造血幹細胞はアンジオポエチンー1を分泌して、血管新生の誘導能があることを解明してきたが、近年腫瘍領域においては、造血幹細胞の壁細胞への分化転換により、腫瘍周囲の血管を拡張させて、血管成熟化を誘導することを明らかにしてきた。どのような分子機序で、造血幹細胞あるいは壁細胞が血管腔の拡大を誘導するのか?管腔形成の分子機序を明らかにすることは、血管だけでなく、ほぼ全ての臓器において重要な課題であるが、現在のところまだ詳細は不明である。我々は血管が血管径を決定する機構をこの造血幹細胞機能を鍵に解析を行ってきている。本シンポジウムでは血管サイズに関わる新規分子アペリンの機能解析を紹介するとともに、造血幹細胞のニッチ領域で幹細胞の休眠に関わっているTie2下流分子の紹介と、これら分子と血管形成との関連について討論したい。

参考文献
1) Takakura N, Huang XL, Naruse T, Hamaguchi I, Dumont DJ, Yancopoulos GD, Suda T. Critical role of the TIE2 endothelial cell receptor in the development of definitive hematopoiesis. Immunity 9 : 677-86, 1998
2) Takakura N, Watanabe T, Suenobu S, Yamada Y, Noda T, Ito Y, Satake M, Suda T. :A role for hematopoietic stem cells in promoting angiogenesis. Cell 102: 199-209, 2000.
3) Okamoto R, Ueno M, Yamada Y, Takahashi N, Sano H, Takakura N: Hematopoietic cells regulate the angiogenic switch during tumorigenesis. Blood 105: 2757-2763, 2005.
4) Ueno M, Itoh M, Kong L, Sugihara K, Asano M, Takakura, N. PSF1 is essential for Early Embryogenesis in mice. Mol Cell Biol 25: 10528-10532, 2005.
5) Yamada Y, and Takakura N. :Physiological pathway of differentiation of hematopoietic stem cell population into mural cells. J Exp Med 203: 1055-1065, 2006.

新規生理活性ペプチドの探索・発見から臨床応用へ
寒川 賢治 [国立循環器病センター研究所]
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 我々のグループでは、生体の複雑な情報伝達および制御系を解明するためのアプローチの一つとして、未知のペプチドホルモンを探索・発見し、それによる新しい生体調節機序を明らかにすることを目指して研究を進めている。新規ペプチドの探索は容易ではないが、その発見は大きなbreakthroughに繋がる。実際我々はこれまでに、ナトリウム利尿ペプチド・ファミリー(ANP(1984年), BNP(1988年), CNP(1990年))やアドレノメデュリン(AM)(1993年)など多くのペプチドの発見とその構造決定に成功し、新たな循環調節系の存在とその生理的意義を明らかにしてきた。ANPとBNPについては既に心不全の診断薬・治療薬として臨床応用されており、CNPについても臨床応用が期待されている。さらに、アドレノメデュリンについても循環器系において多彩な生理作用を有することが明らかになり、心筋梗塞、心不全、肺高血圧症、再生医療など循環器疾患の治療応用が期待されている。
 一方、近年ヒト・ゲノム解析が完了し、ポストゲノム研究としてのオーファンGPCRの内因性リガンドの解明は、新しい生命現象理解への出発点になるであろうし、応用研究においては先端的創薬の重要なターゲットである。このような背景のもとで、我々のグループでは近年、“グレリン(Ghrelin)”と名付けた新規生理活性ペプチドの発見、構造決定に成功した(1999年)。グレリンは28残基のアミノ酸からなるペプチドであり、脂肪酸修飾(n-オクタノイル化)されたこれまでにないユニークな構造を有し、強力な成長ホルモン(GH)分泌促進作用を有する。グレリンの主要な産生部位は胃の内分泌細胞であるが、脳内(視床下部の弓状核の神経細胞など)にも存在し、中枢性のGH分泌調節や摂食調節に関わる。グレリンは末梢投与によってもGH分泌や食欲を促進し、また肥満や拒食症などの病態やエネルギー代謝調節にも密接に関与する。さらに、血管拡張や心血管系の保護作用などの循環器系における機能も明らかになり、臨床研究へと展開されている。
 本講演では、主にアドレノメデュリンとグレリンについて、その発見および多彩な生理機能と臨床応用に向けた研究の現状などについて紹介したい。また最後に、ごく最近発見したニューロメジンSについても一部触れたい。

References
1. M. Kojima and K. Kangawa: Ghrelin: structure and function. Physiol. Rev., 85: 495-522, 2005.
2. M. Kojima and K. Kangawa: Drug Insight: the functions of ghrelin and its potential as a multitherapeutic hormone. Nat. Clin. Pract. Endocr. Metab., 2: 80-88. 2006.

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