過去のシンポジウム
第33回 高遠分子細胞生物学シンポジウム
生命多様性 ーそのルーツを辿るー
プログラム
サテライトDNAの機能と種分化における役割
山下 由起子
[ホワイトヘッド生物医学研究所/マサチューセッツ工科大学/ハワードヒューズ医学研究所]
葉の気孔から発生の謎にせまる
鳥居 啓子
[テキサス大学オースティン校 分子生物科学/ハワードヒューズ医学研究所]
餌の毒で身を守るヘビ:アジアで進化した特異的な防御システム
森 哲
[京都大学理学研究科生物科学専攻]
ヤマカガシの仲間は、頸部の背面皮下に頸腺(けいせん)と呼ばれる特殊な防御器官を持っている。頸腺は背中線に沿って十数対が並んだ構造をしており、皮膚が外圧によって破れることによって頸腺内の毒液が噴出する仕組みになっている。その主成分はブファジエノライドと総称される強心ステロイドである。ヤマカガシは自分でブファジエノライドを生合成はせず、餌として食べたヒキガエルの皮膚毒に含まれるブファジエノライドを取り込んで、頸腺に貯蔵し、自分自身の天敵からの防御に再利用する。さらに、ヤマカガシ類は頸腺毒の効果を高めるために、頸部を捕食者に敢えて提示するような特異的な防御ディスプレイを行う。
現在、頸腺に類似した器官は約20種のヤマカガシ属でのみ見つかっているが、その形態や構造は多様である。約半数の種では、本器官は頸部だけでなく、胴体背面全体にわたって100対以上存在する。さらに、頸腺に蓄えるブファジエノライドはヒキガエルの皮膚毒由来ではなく、ホタルの幼虫が持つ毒由来である種も存在する。頸腺システムは、ヘビ類においてだけでなく、動物界全体においても非常にユニークな防御システムであり、その進化や多様性について概観する。
[References]
1) Yoshida, T., Ujiie, R., Savitzky, A. H., Jono, T., Inoue, T., Yoshinaga, N., Aburaya, S., Aoki, W., Takeuchi, H., Ding, L., Chen, Q., Cao, C., Tsai, T.S., de Silva, A., Mahaulpatha, D., Thien Nguyen, T., Tang, Y., Mori, N., and Mori, A. 2020. Dramatic dietary shift maintains sequestered toxins in chemically defended snakes. Proceedings of the National Academy of Sciences 117: 5964–5969.
2) Mori, A., Burghardt, G. M., Savitzky, A. H., Roberts, K. A., Hutchinson, D. A., and Goris, R. C. 2012. Nuchal glands: A novel defensive system in snakes. Chemoecology 22:187–198.
3) Hutchinson, D. A., Mori, A., Savitzky, A. H., Burghardt, G. M., Wu, X., Meinwald, J., and Schroeder, F. C. 2007. Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus. Proceedings of the National Academy of Sciences 104: 2265-2270.
全がん解析による新たな発がん機構の探索
片岡 圭亮
[慶應義塾大学医学部血液内科/国立がん研究センター研究所分子腫瘍学]
パレオゲノミクスから探る現代日本人のルーツ
中込 滋樹
[ダブリン大学トリニティカレッジ]
私たちは、このパレオゲノミクスを用いて、縄文・弥生・古墳と続いた日本の先史時代を辿ってきた。狩猟採集による生活を基盤とする縄文文化では、その始まりが約16,000年前まで遡る。そして、稲作に代表される弥生文化が広まる約3,000年前まで1万年以上も続いた。その一方で、稲作の伝播は生活様式に大きな革新をもたらした。さらに、約1,700年前に古墳文化が始まると、土器や青銅器だけでなく、生業や社会構造においても大きな変化が生じた。このような急速な文化の転換は世界の中でも珍しい。しかし、それらがどのように現代日本人の形成に関わってきたのか、その詳細は明らかではない。そこで、古代日本人のゲノムを解読することで、時代の変遷に伴う大陸からの集団の移動や既に日本列島に住んでいた集団との混血、また現代の集団に残された祖先の痕跡を調べることができる。
本講演では、人類学・考古学・集団遺伝学を融合させた学際研究の一例として、私たちがこれまで進めてきたパレオゲノミクスから明らかとなった現代日本人の起源に関する最新の成果を紹介する。
[参考文献]
Cooke et al., Science Advances, 7: eabh2419 (2021), DOI: 10.1126/sciadv.abh2419
形態進化はどのように起こるのか:発生反復説の歴史と進化発生学(Evo-Devo)
倉谷 滋
[国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 形態進化研究チーム/理化学研究所 開拓研究本部 倉谷形態進化研究室]
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