過去のシンポジウム
第28回 高遠・分子細胞生物学シンポジウム
生命 -複雑な仕組みを支える複雑な構造-
プログラム
生後環境による神経ネットワークの形成と成熟
下郡 智美
[理化学研究所 脳科学総合研究センター 視床発生研究チーム]
クライオ電子顕微鏡で見る繊毛・鞭毛の構造
吉川 雅英
[東京大学大学院 医学系研究科 生体構造学分野]
しかし、このように正確で複雑な構造がどのように作られているのかはわかっていませんでした。
この問題を解決するため、我々は遺伝学と構造生物学を組み合わせることにしました。構造生物学の手法としては、クライオ電子線トモグラフィーを用い、無染色の鞭毛をナノメートル解像度で観察します。また、クラミドモナス(単細胞の緑藻)の遺伝学を用い、特定の繊毛タンパクにビオチン化される標識を付加します。この標識をクライオ電子線トモグラフィーで観察して、その三次元位置を決めることが出来るようになります。
この手法を用いることで、96-nmの周期についてはFAP59とFAP172という2つのタンパク質が「モノサシ」として働く事を解明しました。また、外腕ダイニンの並ぶ仕組み、鞭毛内の微小管が補強される仕組みなども解明されつつあります。
立体構造に基づくCRISPR:Cas9ゲノム編集ツールの開発と医療への応用
濡木 理
[東京大学大学院 理学系研究科 生物化学専攻]
<References>
1.“Crystal Structure of Cas9 in Complex with Guide RNA and Target DNA” H. Nishimasu, F. A. Ran, P. D. Hsu, S. Konermann, S. I. Shehata, N. Dohmae, R. Ishitani, F. Zhang F and O. Nureki
Cell 156, 935-949 (2014).
2.“Crystal structure of Staphylococcus aureus Cas9” H. Nishimasu, L. Cong, W. X. Yan, F. A. Ran, B. Zetsche, Y. Li, A. Kurabayashi, R. Ishitani, F. Zhang and O. Nureki
Cell, 162, 1113-1126 (2015).
3. “Structure and Engineering of Francisella novicida Cas9” H. Hirano, J. S. Gootenberg, T. Horii, O. O. Abudayyeh, M. Kimura, P. D. Hsu, T. Nakane, R. Ishitani, I. Hatada, F. Zhang, H. Nishimasu and O. Nureki
Cell 164, 950-961 (2016).
4. “Crystal structure of Cpf1 in complex with guide RNA and target DNA” T. Yamano, H. Nishimasu, B. Zetsche, H. Hirano, I. M. Slaymaker, Y. Li, Y. Fedorova, T. Nakane, K. S. Makarova, E. V. Koonin, R. Ishitani, F. Zhang and O. Nureki
Cell in press (2016).
数理モデルを使って生命現象を理解する
影山 龍一郎
[京都大学ウイルス研究所 物質-細胞統合システム拠点]
体節は、胎児に一過性に形成される節状の構造物で、椎骨、肋骨、骨格筋などを生み出す。未分節中胚葉の前端が分節することによって体節が形成され、マウスの場合は約2時間毎にこの分節が繰り返される。この分節現象の周期性は分節時計によって制御されるが、その本体は転写抑制因子Hes7がネガティブ・フィードバックを介して発現振動することによる。数理モデルから、Hes7の発現が振動するには、Hes7が不安定であること、ある程度ゆっくりとネガティブ・フィードバックが起こることが必須であると予測された。実際に検証実験を行うことで、この数理モデルの予測が正しいことが分かった。
一方、多分化能を持つ神経幹細胞では、Hes1の発現が2〜3時間周期で振動していること、Hes1の発現振動によってプロニューラル因子Mash1の発現も振動すること、さらにHes1やMash1が持続発現するとそれぞれアストロサイトやニューロンに分化することが分かった。さらに、Hes1やMash1の発現振動によって、神経幹細胞ではNotchシグナルのリガンドであるDelta-like1 (Dll1)の発現も振動した。数理モデルからDll1の発現のタイミングが発現振動に重要であることが予測されたが、タイミングを変えることで発現振動が減弱し、神経幹細胞の増殖が抑制されることが分かった。
これらの例をもとに、生命現象の動作原理の理解に向けた数理モデルの重要性について議論する。
<References>
1. Bessho et al (2001) Genes Dev 15, 2642-2647
2. Hirata et al (2002) Science 298, 840-843
3. Bessho et al (2003) Genes Dev 17, 1451-1456
4. Hirata et al (2004) Nat Genet 36, 750-754
5. Masamizu et al (2006) PNAS 103, 1313-1318
6. Shimojo et al (2008) Neuron 58, 52-64
7. Takashima et al (2011) PNAS 108, 3300-3305
8. Harima et al (2013) Cell Rep 3, 1-7
9. Imayoshi et al (2013) Science 342, 1203-1208
10. Imayoshi & Kageyama (2014) Neuron 82, 9-23
11. Shimojo et al (2016) Genes Dev 30, 102-116
自己組織化による腎臓再創造の試み
髙里 実
[理化学研究所 多細胞システム形成研究センター ヒト器官形成研究チーム]
<References>
1. Takasato, M. et al. Kidney organoids from human iPS cells contain multiple lineages and model human nephrogenesis. Nature 526, 564–8 (2015).
2. Takasato, M. & Little, M. H. The origin of the mammalian kidney: implications for recreating the kidney in vitro. Development 142, 1937–1947 (2015).
3. Takasato, M. et al. Directing human embryonic stem cell differentiation towards a renal lineage generates a self-organizing kidney. Nat. Cell Biol. 16, 118–26 (2014).
4. Takasato, M., Maier, B. & Little, M. H. Recreating kidney progenitors from pluripotent cells. Pediatr. Nephrol. 29, 543–52 (2014).
ホスホイノシタイドによる生体調節機構
佐々木 雄彦
[秋田大学大学院医学系研究科 病態制御医学系 微生物学講座]
我々のグループは、PIPsの相互変換を司るキナーゼ、ホスファターゼ、また、アシル基のリモデリングに関わる酵素の遺伝子欠損マウスの解析によって、PIPs代謝酵素の異常が細胞の形態変化、増殖、分化、生死、老化といった根源的な生命現象の異常につながり、個体レベルでは癌2,3;、炎症性疾患4,5;、神経変性疾患6;などの幅広い病態を導くことを明らかにしてきた。ヒト疾患においてもPIPsを基質とするキナーゼやホスファターゼの遺伝子変異が報告されており、例えばホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸 [PI(3,4,5)P3] 分解酵素の一つであるPTENの活性欠失型異常は、ヒト癌でp53に次いで最も頻繁に認められる遺伝子異常である。PI(3,4,5)P3生成酵素であるI型PI3キナーゼを標的とした抗癌剤の開発など、一部のPIPs代謝酵素については、医療応用にむけた研究開発も手掛けられている。このようにPIPsによる生体調節機構は、生命科学のみならず創薬の観点からも、注目を集める研究対象の一つとなっている。
本シンポジウムでは、新しいPIPs解析技術の開発やPIPsアシル基多様性の生物学的意義などに関する最近の知見を紹介し、これからのPIPs代謝研究について議論したい。
<References>
1. Sasaki T. et al.: Mammalian phosphoinositide kinases and phosphatases. Prog Lipid Res. 48, 307-343, 2009
2. Stambolic, V. et al.: Negative regulation of PKB/Akt-dependent cell survival by the tumor suppressor PTEN. Cell 95, 29-39, 1998
3. Kofuji S. et al.: INPP4B is a PtdIns(3,4,5)P3 phosphatase that can act as a tumor suppressor. Cancer Discov. 5, 730-739, 2015
4. Sasaki, T. et al.: Function of PI3Kγ in thymocyte development, T cell activation, and neutrophil migration. Science 287, 1040-1046, 2000
5. Nishio, M. et al.: Control of cell polarity and motility by the PI(3,4,5)P3 phosphatase SHIP1. Nature Cell Biol. 9, 36-44, 2007
6. Sasaki J. et al.: The PtdIns(3,4)P2-phosphatase INPP4A is a suppressor of excitotoxic neuronal death. Nature 465, 497-501, 2010
レム睡眠の進化と意義 ~発生学・神経回路遺伝学からのアプローチ~
林 悠
[筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構]
これら同定されたニューロンの活動を遺伝学的に操作することで、マウスにおいてレム睡眠を人為的に増加または遮断することが可能となった。その結果、レム睡眠の操作は、その後のノンレム睡眠中に生じる徐波(記憶学習やシナプス可塑性に重要な脳活動)に影響を与えたことから、レム睡眠が徐波の制御を介して記憶学習に貢献する可能性が示唆された。今後、レム睡眠の人為的操作を様々な神経疾患モデルマウスに適用することにより、レム睡眠の意義がさらに明らかになると期待される。
発生過程に注目すると、レム睡眠の開始と終了を制御するニューロンはどちらも、胎児期に小脳菱脳唇と呼ばれる神経前駆細胞群から生じていた。さらに、同じ細胞系譜からは、睡眠から覚醒への移行を担うニューロンも生じていた。従って、小脳菱脳唇は、脳の状態を切り替える様々なスイッチ役のニューロンを生み出すことが明らかとなった。小脳菱脳唇はレム睡眠やノンレム睡眠のみられない硬骨魚類においても保存されている。小脳菱脳唇の発生過程の理解により、レム睡眠やノンレム睡眠を有する動物が進化した過程が明らかになると期待される。さらに、無脊椎動物である線虫C. elegansを用いた最新の結果も踏まえ、睡眠の進化の過程について考察する。
<Reference>
Cells of a common developmental origin regulate REM/non-REM sleep and wakefulness in mice.
Hayashi Y†, Kashiwagi M, Yasuda K, Ando R, Kanuka M, Sakai K, Itohara S†.
†Co-corresponding authors.
Science 350:957-61 (2015)
開催風景
NA・TSU! いよいよシンポジウムの始まりです。
講演風景 1(演者は下郡先生)
講演風景 2(演者は影山先生)
講演風景 3 みんな真剣です。
講演風景 4 質疑応答も盛んです。
講演風景 5(演者は林先生)
みんなで食べる夕食はビュッフェ形式です!
ポスター発表はいつも白熱します。
シンポジウムの後はBBQや花火で信州の夏を満喫!おとなだって花火は大好きなんです。
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