過去のシンポジウム

開催概要

タイトル 第26回  高遠・分子細胞生物学シンポジウム
テーマ 一つのゲノムが多細胞生物を生む仕組み
開催期間 2014年08月28日(木)~29日(金)
開催場所 高遠さくらホテル
http://www.ina-city-kankou.co.jp/cms/modules/tinyd4/index.php?id=3

〒396-0214
長野県伊那市高遠町勝間217番地
TEL.0265-94-2200

プログラム

2014年8月28日-29日

エピジェノミックスとゲノミックス - 一つのメダカ変異体からの展開
武田 洋幸 [東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻]
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 メダカ(Oryzias latipes)は東アジアに棲息する小型淡水魚であり、日本において長年モデル生物として盛んに研究されてきた。メダカにはゲノム科学のモデル生物としてゼブラフィッシュに比べて非常に有利な点が少なくとも二つある。小さなゲノム(800Mbはゼブラフィッシュ(1700Mb)の半分以下)および複数の近交系の存在である(Takeda & Shimada, 2010)。我々は、国立遺伝学研究所・小原博士、東京大学森下博士らのグループと共同で2007年にメダカゲノムを解読している(Kasahara et al., 2007)。このようなゲノムリソースに加えて、ENU変異体や自然突然変異体のコレクションも充実している。我々は高精度メダカゲノム情報と各種突然変異体を用いて、脊椎動物の発生メカニズムと進化の研究を行っている(Omran et al., 2008、など)。今回は自然突然変異体Double anal fin (Da)の研究から発展した、発生重要遺伝子のエピジェネティック制御機構と巨大な新奇トランスポゾンの話題を提供したい。
 Daは胚、成体ともに体幹部の背側領域の外形と色素パターンが全体として腹側化するユニークな変異体である。最近の研究で、Dazic1/4遺伝子が原因遺伝子で、発現制御領域にトランスポゾン様DNA断片が挿入されたことにより、zic1/4遺伝子の体節組織での発現が特異的に阻害された、zic1/4遺伝子のエンハンサー変異体であることを突き止めた(Moriyama et al., 2012)。このzic1/4遺伝子の発現制御から、hox, pax遺伝子などの発生重要遺伝子群に特異的なエピジェネティック修飾による転写制御の実態(Nakamura et al., 投稿中)及びまったく新しいタイプの活性型トランスポゾン(Inoue et al., 投稿準備中)が明らかとなった。


References
1. Moriyama, Y. et al., The medaka zic1/zic4 mutant provides molecular insights into teleost caudal fin evolution. Curr Biol 22, 601-7 (2012).
2. Takeda H. and Shimada, A. The art of medaka genetics and genomics: what makes them so unique? Ann Rev Genet 44: 217 - 241 (2010).
3. Omran, H., Kobayashi, D., Olbrich, H., Tsukahara, T., et al. Ktu/PF13 is required for cytoplasmic pre-assembly of axonemal dyneins. Nature 456, 611-616 (2008).
4. Kasahara, M. et al., The medaka draft genome and insights into vertebrate genome evolution. Nature 447, 714-719 (2007).

クロマチン構造とダイナミクスの多様性による遺伝子のエピジェネティクス制御機構
胡桃坂 仁志 [早稲田大学理工学術院]
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 多細胞生物の個体発生の過程では、単一のゲノムDNA配列情報から、多様な組織の形成が行われている。このことは、組織特異的な遺伝子発現制御が、ゲノムDNAの配列情報ではなく、それ以外の要素によってなされていることを示している。このような、DNA配列に依存しない後生的な遺伝子発現制御の維持と継承は、“エピジェネティクス”と呼ばれている。そして近年、クロマチンの高次構造やダイナミクスが、エピジェネティクスの本体として重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた。
 クロマチンはタンパク質とDNAとの高次複合体である。長大な真核生物のゲノムDNAは、クロマチンによってコンパクトに折りたたまれ、細胞核内に収納されている。クロマチンの基本的な構造ユニットはヌクレオソームである。ヌクレオソームでは、それぞれ2分子のヒストン(H2A、 H2B、 H3、 H4)からなるヒストン8量体をタンパク質成分としており、その周りに約150塩基対のDNAが左巻きに巻き付いている。クロマチンは、ゲノムDNAの転写、複製、修復を許容する構造であり、エピジェネティックな遺伝子機能発現状態を維持するためには、その高次構造や動的性質を保持したまま娘細胞や子孫へ継承されなくてはならない。すなわち、クロマチンの高次構造やダイナミクスが、エピジェネティクスにおける遺伝情報の発現・維持・継承を担う中心的な役割を果している。このようなクロマチンの高次構造や動的性質は、ヒストンのバリアントや翻訳後修飾によって高次に制御されていることが明らかになってきており、その理解がエピジェネティクスのメカニズムを解明するために重要視されている。我々は、精製したリコンビナントヒストンを用いた試験管内再構成系を用いて、多様なヒストンバリアントや、特異的なヒストン修飾やヒストン変異体などを含むヌクレオソームの高次構造やダイナミクスについて、生化学的、構造生物学的、細胞生物学的、およびゲノミクス的手法により解析している。今回、これらの多様なヌクレオソームに関する最新の研究成果を紹介し、エピジェネティクスのメカニズムについて議論したい。


References
1) Kurumizaka, H. et al., (2013) Current progress on structural studies of nucleosomes containing histone H3 variants. Curr. Opin. Struct. Biol., 23, 109-115.
2) Arimura, Y. et al., (2013) Structural basis of a nucleosome containing histone H2A.B/H2A.Bbd that transiently associates with reorganized chromatin. Sci. Rep., 3, 3510.
3) Horikoshi, N. et al., (2013) Structural polymorphism in the L1 loop regions of human H2A.Z.1 and H2A.Z.2. Acta Cryst. D, 69, 2431-2439.
4) Iwasaki, W. et al., (2013) Contribution of histone N-terminal tails to the structure and stability of nucleosomes. FEBS Open Bio, 3, 363–369.
5) Arimura, Y. et al., (2012) Structural analysis of the hexasome, lacking one histone H2A/H2B dimer from the conventional nucleosome. Biochemistry, 51, 3302-3309.
6) Iwasaki, W. et al., (2011) Comprehensive structural analysis of mutant nucleosomes containing lysine to glutamine (KQ) substitutions in the H3 and H4 histone-fold domains. Biochemistry, 50, 7822-7832.
7) Tachiwana, H. et al., (2011) Crystal structure of the human centromeric nucleosome containing CENP-A. Nature, 476, 232-235.
8) Tachiwana, H. et al., (2011) Structures of human nucleosomes containing major histone H3 variants. Acta Cryst. D, 67, 578-583.
9) Tachiwana, H. et al., (2010) Structural basis of instability of the nucleosome containing a testis-specific histone variant, human H3T. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 107, 10454-10459.

マウス性決定のエピジェネティックな制御機構
立花 誠 [徳島大学疾患酵素学研究センター]
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 ほ乳類のY染色体上の遺伝子Sry(Sex-determining region Y)は、雄化に必須な転写因子をコードしている。未分化性腺が精巣へと分化するためには、Sryが胎児性腺の特定期間に、かつその量が一定の閾値を超えるように発現しなければならない。この特徴的なSryの発現がどのようなメカニズムにより生み出されるのか、これまではよく分かっていなかった。
 ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)は、転写の抑制に働くエピジェネティックマークとして知られている。我々は、H3K9の脱メチル化酵素の1つであるJmjd1aの機能を調べる目的で、そのノックアウト(KO)マウスを作成した。全く予期しなかったことに、XY、Jmjd1a-KOマウスでは雄から雌への性転換が高頻度に起きていることが分かった。野生型マウスでは受精後11.5日の胎児の性腺でSryの発現がピークを迎えるが、Jmjd1a-KOマウス胎児ではその発現が顕著に低下していた。我々は様々なアプローチで、Jmjd1aの性決定における作用点を調べた。その結果、Jmjd1aは直接Sry遺伝子座に作用してH3K9の脱メチル化を触媒し、Sryの転写活性化を促進していることを明らかにした。「酵素反応が性決定に重要である」という発見は、「性は受精のときに既に決定している」という一般的な概念の再考につながるものであった。


参考文献:
1. H3K9 methyltransferase G9a and the related molecule GLP
Shinkai Y. and Tachibana M.
Genes Dev. 25; 781-8, 2011
2. Epigenetic regulation of mouse sex determination by the histone demethylase Jmjd1a
Kuroki S, Matoba S, Akiyoshi M, Matsumura Y, Miyachi H, Mise N, Abe K, Ogura A, Wilhelm D, Koopman P, Nozaki M, Kanai Y,Shinkai Y, and Tachibana M.
Science 341: p1106-1109, 2013

細胞老化と癌
原 英二 [公益財団法人 がん研究会 がん研究所]
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哺乳動物の正常な細胞は複数の細胞周期チェックポイントで常に異常の有無を確認しながら細胞分裂を繰り返している。もし細胞に過度なDNA損傷のような修復不可能な異常が生じると、細胞老化を起こして異常細胞の増殖が不可逆的に停止するか、又はアポトーシスを起こして細胞が死滅することが知られている。このため、古くから細胞老化とアポトーシスは重要な癌抑制機構として働いていると考えられてきた。しかし、アポトーシスとは異なり、細胞老化を起こしても細胞が直ぐに死滅するわけではないため、細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は生体内に長期間存在し続け、加齢と伴に体内に蓄積してゆくと考えられる。一方、老化細胞では染色体の不安定性が亢進しており、癌化しやすい状態にあることが明らかになってきている。また、最近の研究により老化細胞は炎症や発癌促進作用のある様々な分泌性タンパク質を高発現するSASPと呼ばれる現象を起こしていることも明らかになりつつある。このため、細胞老化は初期には癌抑制機構として働くが、加齢に伴い体内に老化細胞が蓄積すると、次第に老化細胞が癌細胞へと形質転換するだけでなく老化細胞から分泌されるSASP因子によって周囲の細胞の発癌も促進される危険がある。今回、私は細胞老化の発癌制御に関する2面性について紹介し、加齢や肥満により何故癌の発症率が上昇するのかについて考察する。


References (*Corresponding author)
1. Imai, Y., Takahashi, A., Hanyuu, A., Hori, S., Sato, S., Naka, K., Hirao, A., Ohtani, N. and *Hara, E.
Crosstalk between the RB-pathway and AKT signaling forms a quiescence-senescence switch.
Cell Rep. (2014) in press
2. Yoshimoto, S., Loo, T.M., Atarashi, K., Kanda, H., Sato, S., Oyadomari, S., Iwakura, Y., Oshima, K., Morita, H., Hattori, M., Honda, K., Ishikawa, Y., *Hara, E. and Ohtani, N.
Obesity-induced gut microbial metabolite promotes liver cancer through senescence secretome.
Nature 499: 97-101. (2013) 
3. Takahashi, A., Imai, Y., Yamakoshi, K., Kuninaka, S., Ohtani, N., Yoshimoto, S., Hori, S., Tachibana, M., Anderton, E., Takeuchi, T., Shinkai, Y., Peters, G., Saya, H. and *Hara E.
DNA damage signaling triggers degradation of histone methyltransferases through APC/CCdh1 in senescent cells.
Mol. Cell 45: 123-131. (2012)
4. Yamakoshi, K., Takahashi, A., Hirota, F., Nakayama, R., Ishimaru, N., Kubo, Y., Ohmura, M., Hirao, A., Saya, H., Arase, S., Hayashi, Y., Nakao, K., Matsumoto, M., *Ohtani, N. and *Hara, E.
Real-time in vivo imaging of p16Ink4a reveals cross-talk with p53.
J. Cell Biol. 186: 393-407. (2009)
5. *Ohtani, N., Imamura, Y., Yamakoshi, K., Hirota, F., Nakayama, R., Kubo, Y., Ishimaru, N., Takahashi, A., Hirao, A., Shimizu, T., Mann, D.J., Saya, H., Hayashi, Y., Arase, S., Matsumoto, M., Nakao, K. and *Hara, E.
Visualizing the dynamics of p21Waf1/Cip1 cyclin-dependent kinase inhibitor expression in living animals.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 15034-15039. (2007)
6. Takahashi, A., Ohtani, N., Yamakoshi, K., Iida, S., Tahara, H., Nakayama, K., Nakayama, K.I., Ide, T., Saya, H. and *Hara, E.
Mitogenic signalling and the p16INK4a-Rb pathway cooperate to enforce irreversible cellular senescence.
Nat. Cell Biol. 8: 1291-1297. (2006)
7. Maehara, K., Yamakoshi, K., Ohtani, N., Kubo, Y., Takahashi, A., Arase, S., Jones, N.and
*Hara, E.
Reduction of total E2F/DP activity induces senescence-like cell cycle arrest in cancer cells lacking functional pRB and p53.
J. Cell Biol. 167: 553-560. (2005)
8. Ohtani, N., Brennan, P., Gaubatz, S., Sanij, E., Hertzong, P., Wolvetang, E., Ghysdael, J., Rowe, M. and *Hara, E.
Epstein-Barr virus LMP1 blocks p16INK4a-RB-pathway by promoting nuclear export of E2F4/5.
J. Cell Biol. 162: 173-183. (2003)
9. Ohtani, N., Zebedee, Z., Huot, T.J.G., Stinson, J.A., Sugimoto, M., Ohashi, Y., Sharrrocks, A.D., Peters, G. and *Hara, E.
Opposing effects of Ets and Id proteins on p16INK4a expression during cellular senescence.
Nature 409: 1067-1070. (2001)
10. Sugimoto, M., Nakamura, T., Ohtani, N., Hampson, L., Hampson, I.N., Shimamoto, A., Furuichi, Y., Okumura, K., Niwa, S., Taya Y. and *Hara, E.
Regulation of CDK4 activity by a novel CDK4 binding protein, p34SEI-1.
Genes & Dev. 13: 3027-3033. (1999)

RNAサイレンシングの生化学
泊 幸秀 [東京大学分子細胞生物学研究所]
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 siRNAやmicroRNAなどの小分子RNAが、RNAサイレンシングという現象を引き起こし、セントラルドグマの様々な段階を調節することにより、発生や癌化などの重要な生物学的現象を巧妙に制御していることが、近年急速に明らかになってきた。その一方で、「RNAサイレンシングはどのようなしくみで起こるのか」という根本的な問いに対しては、未だに多くのブラックボックスが残されている。その大きな理由として、小分子RNAは単独ではたらくのではなく、RISC (RNA-induced silencing complex)と呼ばれるRNA-タンパク質複合体を形成して初めて機能を発揮できる、と言う点が挙げられる。すなわち、小分子RNAによる遺伝子発現制御のメカニズムを理解するためには、小分子RNAそのものの解析だけでは不十分であり、RISCが正しく組み立てられる過程、そしてRISCという複合体が作用する原理を理解することが必要不可欠であると言える。
 siRNAやmicroRNAは、RNaseIII酵素による切断を受け、二本鎖RNAとして作り出される。これらの小分子RNA二本鎖は、二本鎖のままRISCのコアタンパク質であるArgonaute (Ago)に取り込まれる。引き続き、二本のRNA鎖が引きはがされ、片方の鎖のみがAgoに残ることにより、標的mRNAを認識できる成熟体RISCが完成する1
 興味深いことに、Agoへの二本鎖RNAの取り込み—見かけ上はAgoとRNAが単に結合するだけの反応—にはATPが必須であるのに対し、Ago内での二本鎖RNAの引きはがし—20個程度の塩基対がこわされる反応—はATPを必要としない2,3
 我々は最近、Hsc70/Hsp90を中心とする分子シャペロンマシナリーが、Agoへの二本鎖RNAの取り込みに必要であることを見いだした4。これは、かさ高い小分子RNA二本鎖を取り込むためには、Agoのダイナミックな構造変化が必要であり、シャペロン装置がATP を消費することによってその構造変化を媒介していることを示唆するものである。
 本講演では、RISC 形成の原動力としての分子シャペロンの役割に注目しながら、現在明らかになっているRISC の形成過程1–4およびRISC による標的遺伝子抑制機構5–7の全体像について概説したい。


References
1. Making RISC.
Kawamata T, *Tomari Y.
Trends Biochem Sci. 2010 Jul;35(7):368-76. Review.
2. Structural determinants of miRNAs for RISC loading and slicer-independent unwinding.
Kawamata T, Seitz H, *Tomari Y.
Nat Struct Mol Biol. 2009 Sep;16(9):953-60.
3. ATP-dependent human RISC assembly pathways.
Yoda M, Kawamata T, Paroo Z, Ye X, Iwasaki S, Liu Q, *Tomari Y.
Nat Struct Mol Biol. 2010 Jan;17(1):17-23.
4. Hsc70/Hsp90 chaperone machinery mediates ATP-dependent RISC loading of small RNA duplexes.
Iwasaki S, Kobayashi M, Yoda M, Sakaguchi Y, Katsuma S, Suzuki T, *Tomari Y.
Mol Cell. 2010 Jul 30;39(2):292-299.
5. Drosophila Argonaute1 and Argonaute2 employ distinct mechanisms for translational repression.
Iwasaki S, Kawamata T, *Tomari Y.
Mol Cell. 2009 Apr 10;34(1):58-67.
6. miRNAs mediate gene silencing via multiple different pathways in Drosophila.
Fukaya T and *Tomari Y.
Mol Cell. 2012. Dec 28;48(6):825-36.
7. Molecular insights into microRNA-mediated translational repression in plants.
Iwakawa HO, *Tomari Y.
Mol Cell. 2013 Nov 21;52(4):591-601.

陸上植物の生活史の統一的理解 : 幹細胞モジュラリティー
長谷部 光泰 [自然科学研究機構 基礎生物学研究所]
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 生物が受精卵から生涯を終えるまでのプロセスを「生活史」と呼ぶ。生物は多様な生活史を持っているが、生物全体の生活史を統一的に理解することはできないのだろうか。高校で生物の生活史の多様性に始めて気づいたとき、受精、減数分裂による配偶子形成を基準にすれば、ほぼ全ての生物の生活史は統一的に理解できることに気づき感動した。しかし、この2つの段階を除けば、多くの生物の生活史はとても異なっている。受精と減数分裂以外に、生活史を包括的に理解できる基本原理や機構は存在しないのだろうか。
 植物は魚類と哺乳類が分岐したのとほぼ同じ約5億年程前に陸上へ進出した、多細胞生物の中でも新しい群である。しかし、1倍体と2倍体の2つの多細胞世代を持つこと、現生生物間を結ぶような化石が十分には産出しないこともあり、現生種の発生過程に比較形態学的観察からでは、共通性を見いだすことができていなかった。
 我々は陸上植物の主要な系統であるコケ植物セン類のヒメツリガネゴケ、シダ植物小葉類のイヌカタヒバのゲノム解読を行い、被子植物のシロイヌナズナやイネなどと比較することで、発生過程に関わる遺伝子がどのように遺伝子重複し進化したかを推定した。また、コケ植物セン類ヒメツリガネゴケでは遺伝子ターゲティングが容易であることを利用して、発生過程に関わる遺伝子の機能解析を行い、被子植物との比較から、発生制御遺伝子系の機能がどのように進化してきたかを推定してきた。
 これまでの研究結果を総合すると、陸上植物の生活史は、異なった性質の多能性幹細胞から産み出される異なった発生過程がそれぞれモジュールとなり、モジュールを転換したり、モジュールを融合したり、あるいは、モジュール内の遺伝子網を別のモジュールに流用することなどにより、多様化しているらしいことがわかった。このような幹細胞モジュールを考えることで、少なくとも陸上植物の生活史の進化は包括的に理解できるのではないかと考えている。他の生物の生活史についてもどの程度この仮説が適用可能かについて議論してみたい。


References
1. Tanabe, Y. et al. (2005). Characterization of MADS-box genes in charophycean green algae and its implication for the evolution of MADS-box genes. Proc Natl Acad Sci USA 102, 2436 –2441.
2. Maizel, A. et al. (2005). The floral regulator LEAFY evolves by substitutions in the DNA binding domain. Science 308, 260-263.
3. Rensing, S.A. et al. (2008). The Physcomitrella genome reveals evolutionary insights into the conquest of land by plants. Science 319, 64-69.
4. Okano, Y. et al. (2009). A polycomb repressive complex 2 gene regulates apogamy and gives evolutionary insights into early land plant evolution. Proc Natl Acad Sci USA 106, 16321-16326.
5. Aya, K. et al. (2011). The Gibberellin perception system evolved to regulate a pre-existing GAMYB-mediated system during land plant evolution. Nat Commun 2, 544.
6. Banks, J.A. et al. (2011). The Selaginella genome identifies genetic changes associated with the evolution of vascular plants. Science 332, 960-963.
7. Sakakibara, K. et al. (2013). KNOX2 genes regulate the haploid-to-diploid morphological transition in land plants. Science 339, 1067-1070.
8. Xu, B. et al. (2014). Contribution of NAC transcription factors to plant adaptation to land. Science 343, 1505-1508.
9. Kofuji, R., and Hasebe, M. (2014). Eight types of stem cells in the life cycle of the moss Physcomitrella patens. Curr Opin Plant Biol 17, 13-21.

上皮形態形成の物理・化学法則の理解に向けて
杉村 薫 [京都大学物質-細胞統合システム拠点/JSTさきがけ]
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生命システムは化学法則と物理法則にしたがって動作する。例えば、個体発生過程では、DNAにコードされた情報がタンパク質の分布や活性などの化学シグナルとして読み出され、細胞の分化や増殖を制御する。加えて、細胞は機械的な力を生成・受容し、多細胞組織を正しく変形させる。本シンポジウムでは、機械的な力と化学シグナルが統合されて上皮の形態形成と維持を達成する仕組みに関する我々の研究成果を発表する。

A. 力のベイズ推定法(東京大学→明治大学、石原秀至氏との共同研究)
細胞の「かたち」を含む画像データから細胞にかかる「力」をベイズ推定する手法を開発し、その妥当性を様々な数理・実験解析から確認した (参考文献1~3)。

B. 六角格子化の力学(東京大学→明治大学、石原秀至氏との共同研究)
力のベイズ推定、遺伝学実験、数値計算などを組み合わせた多角的なアプローチから、「組織の異方的な応力が細胞の六角格子化を促進する」という多細胞パターン形成の新規物理メカニズムを明らかにした (参考文献4)。

C. ガン変異細胞の排除の力学(北海道大学、藤田恭之研との共同研究)
ある種のガン変異細胞は正常細胞に取り囲まれると上皮シートから排除されることが知られている。我々は、正常細胞がガン変異細胞の排除を積極的に促進するメカニズムを明らかにした(Kajita et al., under review)。

■研究室ホームページ http://www.koolau.info/

References
1. Ishihara S#, Sugimura K#. Bayesian Inference of force dynamics during morphogenesis. J. Theor. Biol. 313C: 201-211, 2012.
2. Ishihara S, Sugimura K, Cox SJ, Bonnet I, Bellaïche Y, Graner F. Comparative study of non-invasive force and stress inference methods in tissue. Eur. Phys. J. E 36: 45, 2013.
3. Sugimura K#, Bellaïche Y, Graner F, Marcq P, Ishihara S. Robustness of force and stress inference in an epithelial tissue. IEEE Eng. Med. Biol. Soc. 2712-2715, 2013.
4. Sugimura K*#, Ishihara S*#. The mechanical anisotropy of a tissue promotes ordering in hexagonal cell packing. Development 140: 4091-4101, 2013.

皮膚損傷修復反応から四肢形成反応に転換する「再生物質」
佐藤 伸 [岡山大学 異分野融合先端研究コア]
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 高等脊椎動物は四肢等の「器官」を再生する能力に乏しいことは言わずもがなである。しかし、進化レベルを下って鑑みると、有尾両生類(ウーパールーパーなど)に代表されるように四肢(器官)再生が可能な動物は多い。故に、我々は進化の途上で高等脊椎動物は器官再生能力を失ったと考える。進化の過程で失った能力であれば、それを取り戻すことは不可能ではないと考えている。再生能力を呼び覚ますために、初めに再生可能動物である有尾両生類の再生メカニズムの解明、特に再生の開始にかかわるメカニズムの解明が重要である。有尾両生類の四肢再生では、四肢切断後、切断面に存在する神経が再生の「引き金」を引くことが明らかになっている。この引き金たる神経が切断面に存在しなければ再生可能動物であっても再生できないことが分かっている。神経から放出されている物質が再生の開始をコントロールしているらしいことは1823年にT.J.Toddによって報告されている。以来190年間にわたり、神経因子の探索が行われてきたが謎のままとなっている。この研究上の停滞によって、四肢の再生研究は大きく発展することはなく「古典研究」として扱われ研究者人口も大きく減ることになってしまった(と考える)。
 我々は神経因子探索のため、新規実験系である「過剰肢付加モデル」を発展させてきた。この過剰肢付加モデルは、皮膚の損傷個所に神経を加えるだけで再生を惹起できるという優れた実験システムである。その実験の性質上、既存の実験系と比較しても多くのアドバンテージを有しており、飛躍的に研究を進めることができるようになった。我々の一連の研究のなかで、神経の代替として再生への引き金を引ける物質を見出すことができた。FGFとBMPが神経の代替として考えられる候補であり、少なくとも有尾両生類の異なる二つの種で同様の効果(再生の惹起)を観察することができている。これらの特定物質が本当に神経因子なのかどうか?またその詳しいメカニズムはなにか?など今後の課題も多いが、少なくとも長きに渡って探索されてきた「再生物質」の特定に至ったことは進展であると考えている。四肢再生の中では「分化のリセット=リプログラミング」も起こるため、今後、特定した再生物質を中心に内在システムによる分化リプログラミングと高等脊椎動物への応用という発展・展開を睨んでいる。

再生できる生き物から何を学んだのか
阿形 清和 [京都大学 大学院理学研究科 生物物理学教室]
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 東京の高校生の時に生物の再生現象に魅了され、京大で再生生物学者になると決意し、上洛してから40年の月日が経った。何に魅了されたかと言うと、多細胞生物の細胞がもつ<賢さ>である。細胞は、個体のピンチを感知し、失った体の部分の組織や器官を元通りに再生することができる。何で、細胞はそんな器用なことができるの? 素朴な疑問だった。
 私が上洛した頃、我が師匠、岡田節人は細胞培養技術を導入することで、単一細胞のふるまいにこだわって研究を展開していた(Eguchi & Okada, 1973, PNAS)。そして、細胞が持つ<賢さ>をみんなに知らしめるためのキャッチコピーとして分化転換transdifferentiationという言葉を造り、盟友John Gurdonとタッグを組んで細胞が持つ柔軟性を世に訴え続けた(Okada, 1991, Oxford University Press)。その精神を受け継いだ我々の世代は、遺伝子操作技術を駆使することで、プラナリアやイモリの再生のメカニズムの解明に邁進した(Cebria et al., 2002, Nature; Yazawa et al.,2010, PNAS; Inoue et al., 2012, Dev. Dyn.)。そして、再生メカニズムを解明することで、再生できないもと再生できるものとの違いを調べて、再生できない動物を再生できるようにまでなった(Umesono et al., 2013, Nature)。
 40年の月日の中間点であった、丁度20年前に、雑誌『細胞工学』で「再生による医療の道をさぐる」という特集を組んで、再生研究と医療をつなぐ発想を最初に提示した。自分の細胞で臓器を再生させる。そんな夢を実現させるために、20年前に提示した課題は、①リプログラミングと②三次元構造の再構築だった。そしてみなさんご存知のように、iPSとSTAP細胞によって①のリプログラミングはわれわれの予想を越える早さと勢いで実現された。②の再次元構造の構築については、発生遺伝学の隆盛とともに多くの謎が解かれ、笹井グループによってシャーレ内で三次元構造をもつ脳や眼が作られるようになった。
 このように、この40年間で、われわれは細胞の<賢さ>の一部を理解し、そして引き出すことに成功したと言える。この分野における日本人研究者の貢献度の高さは傑出している。今回の高遠シンポジウムでは、これらの研究の流れを整理するとともに、これからの再生生物学が提示する新たな地平について紹介したい。

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開催風景

  • 第26回の会場 高遠さくらホテル 山間部に佇む趣あるホテルです。
  • ホテルのわきには湖もあります
  • 講演風景(演者は原先生 皆、熱心に聴き入っています。)
  • 講演風景(演者は武田先生 熱のこもった質疑応答が続きます。 なお、先生がお召しになっているのは高遠シンポ記念Tシャツ!)
  • 講演風景(演者は佐藤先生 演者、座長、会場が一体となって盛り上がります。)
  • ポスター会場 毎年、参加者のエネルギーが溢れ出す一コマです。
  • シンポジウム後のBBQ 記念に1枚
  • 浜松餃子 恒例のメニューです
  • 南アルプス(仙丈ケ岳) 全員登頂を祝して1枚

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