第20回 高遠・分子細胞生物学シンポジウムは、おかげさまで盛会のうちに終了いたしました。
たくさんのご参加をいただき、誠にありがとうございました。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
タイトル | 第20回 高遠・分子細胞生物学シンポジウム |
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テーマ | ビジョナリー生命科学 |
開催期間 | 2008年8月21日(木)~22日(金) |
開催場所 | 高遠さくらホテル |
オートファジーはリソソームを分解の場とする、細胞質成分の大規模分解システムであり、細胞内タンパク質の代謝回転に極めて重要である。オートファジーは長い間知名度の低い細胞機能であったが、近年の酵母遺伝学を用いた研究から急速にその理解が深まっている。私達は酵母で得られた知見を生かし、哺乳類でのオートファジーの役割を解析している。まず生体内でのオートファジーを観察するために、全身のオートファゴソームが蛍光標識されるモデルマウスを作製した。これを用いて、オートファジーの活性は通常は低いものの、絶食時の成体マウスや出生直後の新生児の全身で顕著に誘導されることを明らかにした。新生児は経胎盤栄養の突然の遮断による生理的な飢餓状態ある。そこでオートファジー不能マウス(Atg5欠損マウス)を作製したところ、このマウスは出生直後に深刻な栄養不良に陥ることが明らかとなった。すなわち、オートファジーは、栄養飢餓時に細胞が自身の一部を分解し栄養素であるアミノ酸を内因的に供給するための重要な生理的機構であると考えられた。
またAtg5ノックアウトマウスは神経や肝細胞内にユビキチン陽性のタンパク質凝集体が蓄積していることも観察された。これは胎生期の低いレベルのオートファジーも、細胞内タンパク質の品質管理として重要な働きをしていることを示している。実際、神経特異的Atg5ノックアウトマウスは4週目頃より神経変性、運動機能異常を呈するようになった。以上のことから、誘導されるオートファジーは飢餓適応として、基底レベルの恒常的オートファジーは細胞内品質管理機構としてそれぞれ異なった生理的重要性をもつことを示してきた。
さらに最近私たちは、初期胚発生にもオートファジーが必須であることを発見した。受精直後、母性タンパク質は急速に分解され、受精卵のゲノムにコードされるタンパク質が発現されることが知られている。私たちは受精依存的にオートファジーが活性化されること、卵特異的Atg5ノックアウトマウスは4-8細胞期で致死となることを見いだした。その他オートファジーは細胞内侵入細菌の除去、抗原提示などとも関連があり、オートファジーは極めて多彩な生理的意義をもっていると考えられるに至っている。
References
1. Tsukamoto, S., Kuma, A., Murakami, M., Kishi, C., Yamamoto, A., Mizushima, N. Autophagy is essential for preimplantation development of mouse embryos. Science (2008) in press
2. Hara, T., Takamura, A., Kishi, C., Iemura, S., Natsume, T., Guan, J.L., Mizushima, N. FIP200, a ULK-interacting protein, is required for autophagosome formation in mammalian cells. J. Cell Biol. 181: 497-510 (2008)
3. Mizushima, N., Levine, B., Cuervo, A.M., Klionsky, D.J. Autophagy fights disease through cellular self-digestion Nature 451:1069-1075 (2008)
4. Mizushima, N. Autophagy: process and function Genes Dev. 21: 2861-2873 (2007)
5. Hara, T., Nakamura, K., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakahara, Y., Suzuki-Migishima, R. Yokoyama, M., Mishima, K., Saito, I., Okano, H., Mizushima, N. Suppression of basal autophagy in neural cells causes neurodegenerative disease in mice. Nature 441, 885-889 (2006).
6. Kuma, A., Hatano, M., Matsui, M., Yamamoto, A., Nakaya, H., Yoshimori, T., Ohsumi, Y., Tokuhisa, T., Mizushima, N. The role of autophagy during the early neonatal starvation period. Nature. 432, 1032-1036 (2004).
コヒーシンタンパクは真核生物種において高度に保存されたタンパク複合体であり、染色体分配に必須の役割を持つ。近年の研究から、コヒーシンは細胞分裂時だけでなく、DNA二重鎖切断の修復や転写制御など様々な場面で役割を持つ多機能複合体であることが報告されている(文献1,2)。
我々は、酵母及びヒト染色体上のコヒーシンの結合位置を高密度DNAチップを用い、ChIP-chip解析法(Chromatin Immunoprecipitation on DNA chip)により明らかにしてきた。その結果、酵母ではおよそ860の染色体腕部のコヒーシン結合部位の約8割が転写収束部位に局在し、さらに転写の変化により自由に局在を変えうることを見いだした(文献2、3)。同様の手法を用いてヒト全染色体上で約8,000箇所のコヒーシン局在領域を明らかにした(文献4)が、これらの局在領域は遺伝子上流及び下流の5kb以内に濃縮が見られたものの、遺伝子の内外を問わず広く染色体上に分布していた。面白いことにヒトでは同定したコヒーシン局在領域には、β-グロビン遺伝子座のLCR(locus control region)やH19/igf2遺伝子座のICR(imprinting control region)を始めとするインシュレーター因子CTCFの既知の結合サイトが検出されたため、CTCFについてもゲノムの1%の領域(ENCODE領域)についてChIP-chip解析を行ない、コヒーシンの局在領域と比較した。その結果、98%の領域でCTCFとコヒーシン結合部位が一致した。CTCFとコヒーシンの結合の相互依存性について検証するため、コヒーシンサブユニットのhScc1のノックダウン、およびCTCFノックダウンを行い、免疫抗体染色法、生化学的解析により、CTCF及びコヒーシンの挙動を観察した。その結果、コヒーシン及びCTCFのクロマチン結合量には変化が見られなかったが、幾つかのコヒーシン局在領域で、CTCF ノックダウンにより、hScc1の局在量が最大で10分の1まで減少した。逆に、hScc1ノックダウンではCTCFの局在量は、ほとんど変化がなかった。以上の結果から、CTCFはコヒーシンの染色体上の局在に必要である一方、染色体上へのローディングには必要ないと結論した。また、転写の全体像を解析したところ、コヒーシンのノックダウンはCTCFのノックダウンと同様の効果を転写に与えた。これらのことは、インシュレーター機能の実態はCTCFではなく、むしろコヒーシンが大きく担っている可能性を示唆している。これらの発見は今まで謎であったハエやヒトのコヒーシン変異によってもたらされる遺伝病の形質をうまく説明できる。
現在、CdLs患者のB細胞を用い、転写プロファイルとコヒーシンの局在、クロマチン構造の比較を行っているのでそのデータもあわせて報告する。
参考文献
1. L. Strom, H. B. Lindroos, K. Shirahige, and C. Sjögren: Postreplicative recruitment of Cohesin to double-strand breaks is required for DNA repair. Mol. Cell, 16, 1003-1015 (2004)
2. A. Lengronne, Y. Katou, S. Mori, S. Yokobayashi, G. Kelly, T. Itoh, Y. Watanabe, K. Shirahige
3. H.Betts Lindroos, L.Strom, T.Itoh, Y.Katou, K.Shirahige*, and C.Sjogren* (*shared corresponding author). Chromosomal Association of the Smc5/6 Complex Reveals that It Functions in Differently Regulated Pathways. Mol Cell., 22, 755-767 (2006)
4. K. S. Wendt*, K. Yoshida*, T. Itoh*, M. Bando, B. Koch, E. Schirghuber, S. Tsutsumi, G. Nagae, K. Ishihara, T. Mishiro, K. Yahata, F. Imamoto, H. Aburatani, M. Nakao, N. Imamoto, K. Maeshima, K. Shirahige#, and J.-M. Peters# Cohesin mediates transcriptional insulation by CCCTC-binding factor. Nature (article). 451, 796-801 (2008) (*equally contributed author) (#shared corresponding author)
一つの受精卵が発生を進めて組織や器官を形づくるとき、ある細胞は生まれた場所から遠く離れたところまで「旅」をする。「このような長旅はなぜ必要なのか」と問う前に、そもそも私達は、いつどこでどのような細胞が旅するのかについて、ほんのわずかしか知らない。胚を丸ごと扱う研究をしていると、細胞たちの予期せぬ挙動に遭遇する。本講演においては、細胞がみせる奇妙なふるまいとその意義について、特に細胞の移動と血管の3次元構築に焦点をあてて最近の研究成果を紹介したい。
羊膜類(哺乳類や鳥類)の発生過程で最初に形成される血管である背側大動脈(Dorsal Aorta)は、2種類の細胞群に由来する。まず側板中胚葉に由来する細胞が原始血管を作り、続いてその原始血管に体節由来の細胞が取り込まれ、最終的には背側大動脈の内皮組織全体が体節由来の細胞で構成される。私達は、体節由来の細胞群がどのようなメカニズムで大動脈形成に寄与するかについて解析した。驚くべきことに、体節内に出現した血管内皮前駆細胞は、各体節の後端側のみを移動して大動脈に到達することがわかった。つまり、スムーズにみえる一本の血管も、もとは分節パターンに従って細胞の供給を受けるのである。またこれらの血管内皮細胞の移動には、Notch及びその下流でEphrinB2が重要な役割を担うこと、そして背側大動脈はこれらの細胞移動を誘因する作用をもつことなどを見出した。分節パターンに沿って大動脈に到達した体節細胞は、もともと存在していた原始血管の細胞を追い出しながら、最終的には血管のすべての領域に分布した。シンプルな構造をもつ血管といえども、その形成過程では、異なる場所に由来する細胞群がそれぞれに厳密に制御されたシグナルのもとで正しく振る舞うことが重要であるらしい。またこれらの血管系細胞の挙動から、血管系と神経系の細胞が、それぞれの移動経路を巧みに「住み分けて」いることもみえてきたので、これらのしくみについてもディスカッションしたい。
References
-Sato et al., (2008) Developmental Cell, 14: 890-901
-Sato et al., (2007) Dev. Biol., 305, 616-624
-Watanabe et al., (2007) Dev. Biol., 305, 625-636
-Tadokoro et al., (2006) Current Biology, 16, 1012-1017
-Nakaya et al., (2004) Developmental Cell 7: 425-438.
RNAiは分裂酵母からヒトに至るまで進化的に保存された分子経路であり、小分子RNAがArgonaute蛋白質と複合体を形成して、様々なレベルで遺伝子の発現を配列特異的に制御、特に抑制する機構である。
私達はショウジョウバエをモデルとしてRNAi機構を研究している。ショウジョウバエには5種類のArgonaute蛋白質が存在し、これらはほぼ全ての細胞で発現するAGOサブファミリー(AGO1, AGO2)と生殖細胞系で発現する PIWIサブファミリー(AGO3, Aub, Piwi)に分類される。
卵巣または精巣においてPIWIサブファミリー蛋白質に特異的に結合する小分子RNA(piRNA)の解析から、piRNAの多くがレトロトランスポゾンに由来していることを明らかにした。また、piRNAの生合成は既に存在しているセンスおよびアンチセンス鎖由来のpiRNAがお互いに反対鎖転写物を認識して、PIWIのスライサー活性(小分子RNAにガイドされるendonuclase活性)を用いて反対鎖由来転写物を切断し合うことで生合成サイクルを形成しているというモデルを提唱するに至った(1)。重要なことは、このサイクルがトランスポゾン転写産物の分解を兼ねていることである。PIWIサブファミリー蛋白質は生殖細胞系列を通して雌成体からその子孫へと伝播する。piRNAもPIWIサブファミリー蛋白質と複合体を形成することで、雌成体からその子孫へと伝播すると考えられる。したがって、piRNAの生合成サイクルは単に生殖細胞内でのサイクルにとどまらず、世代間のサイクルを形成していることを示唆する。これはさらに、トランスポゾン抑制「シグナル」が母からその子孫に伝えられる可能性を示唆する。
一方、体細胞においてAGOサブファミリーに特異的に結合する小分子RNAの解析から、AGO1はmicroRNA(miRNA)に、またAGO2は 内在性siRNA (endogenous siRNA/esiRNA)に結合することを明らかにした。esiRNAの多くがレトロトランスポゾンに由来していること、そしてesiRNA生合成経路を阻害することでレトロトランスポゾンの発現が亢進することから、esiRNA経路が体細胞においてレトロトランスポゾンの抑制に関与していることが明らかとなった(2)。
これらの成果をもとに、レトロトランスポゾンの抑制と遺伝子発現制禦機構との関連について議論したい。
References
1. Gunawardane LS, Saito K, Nishida KM, Miyoshi K, Kawamura Y, Nagami T, Siomi H, Siomi MC. A slicer-mediated mechanism for repeat-associated siRNA 5' end formation in Drosophila. Science 2007 315:1587-90.
2. Kawamura Y, Saito K, Kin T, Ono Y, Asai K, Sunohara T, Okada TN, Siomi MC, Siomi H. Drosophila endogenous small RNAs bind to Argonaute 2 in somatic cells. Nature 2008 453:793-7
病原体やがん細胞の排除は生体防御の根幹をなしている。そして、防御システムの破綻が細胞のがん化やがん細胞の異常増殖につながることは広く知られているところであるが、そこでは自然免疫系と適応免疫系の連携の重要性も指摘されている。生体防御系におけるIFN (interferon)や、IFN系を制御する因子として我々が同定したIRF (IFN regulatory factor)ファミリー転写因子の重要性について、生体防御系における遺伝子発現ネットワークについて解析してきた。
免役応答の惹起においてToll-like受容体 (TLRs) の役割が注目されている。実際、これらの受容体は抗原提示細胞において顕著な発現が見られ、感染微生物などが持つ特有の核酸や他の構成分子によって活性化されることが知られており、従ってそのシグナル経路は自然、適応免疫系の根幹を担っている。TLRのシグナル伝達機構について、IFN系の制御とそれによる免疫系の制御に関する解析を行った。その結果、TLRの下流でアダプター分子として機能するMyD88及び TRAF6が IRF7と結合し、IRAK4介してIRF7の活性化に繋がることを明らかにした。更に、IRF5が炎症性サイトカインの遺伝子発現誘導に重要であることも明らかとなった。最近ではIRF5が発がんの抑制に関与しており、同時にウイルス感染防御にも重要な働きを示すことを明らかにした。すなわち、IRF5はがん抑制因子であるp53とは異なった経路を介して、がん遺伝子を発現する細胞やウイルス感染細胞にapoptosisを誘導することが判明しているが、その詳細なメカニズムについて現在解析中である。
核酸の認識と免疫系の惹起については、病原体由来のDNAのみならず、組織損傷やアポトーシスを起こした細胞の不完全な処理などによって生体に(多量の)DNAが暴露されたとき、免疫系が活性化されることが知られており、それが自己免疫疾患の発症に繋がるとの報告もある。DNAによる免疫系活性化については40年以上も前から知られているが、活性化を担う本体は未知であった。我々はDNA認識機構を担う新しい免疫系活性化因子DAI (DNA-dependent activator of interferon regulatory factors (IRFs))を同定し、その解析を行った。DAIは細胞質内でDNAと複合体を形成することも明らかとなった。最近ではDAI遺伝子の欠損マウスを作製し解析しているが、DNAによる免疫系の活性化メカニズムにはDAI以外の分子も機能しているようである。今後、IRF転写因子が果たす多彩な機能の解析や、DAIや他のDNAセンサーの解析を通した免疫系の制御や免疫病発症機序の研究を展開させていきたい。
参考文献
(1) Taniguchi, T., Mantei, N., Schwarzstain, M., Nagata, S., Muramatsu, M. and Weissmann, C.; Human leukocyte and fibroblast interferons are structurally related. (1980). Nature, 285, 547-549.
(2) Miyamoto, M.,Fujita, T., Kimura, Y., Maruyama, M., Harada, H., Sudo, Y., Miyata, T. and Taniguchi, T.; Regulated expression of a gene encoding a nuclear factor, IRF-1, that specifically binds to IFN-β gene regulatory elements. (1988). Cell, 54, 903-913.
(3) Takaoka, A., Hayakawa, K., Yanai, H., Stoiber, D., Negishi, H., Kikuchi, H., Shibue, T., Honda, K., and Taniguchi, T.; Integration of IFN-a/b signalling to p53 responses in tumor suppression and antiviral defense. (2003). Nature, 424, 516-523.
(4) Takaoka A., Yanai H., Kondo S., Duncan G., Negishi H., Mizutani T., Kano S., Honda K., Ohba Y., Mak T.M., and Taniguchi T.; Integral role of IRF-5 in the gene induction programme activated by Toll-like receptors. (2005). Nature, 434, 243-249.
(5) Honda K., Yanai H., Negishi H., Asagiri M., Sato M., Mizutani T., Shimada N., Ohba Y., Takaoka A., Yoshida N., and Taniguchi T.; IRF-7 is the master regulator of type-I interferon-dependent immune responses. (2005). Nature 434, 772-777.
(6) Honda K., Ohba, Y., Yanai, H., Negishi, H., Mizutani, T., Takaoka, A., Taya, C., and Taniguchi, T.; Spatiotemporal regulation of MmyD88-IRF-7 signalling for robust type I interferon induction. (2005). Nature, 434, 1035-1040.
(7) Takaoka, A., Wang, Z., Choi, MK., Yanai, H., Negishi, H., Ban, T., Yan, L., Miyagishi, M., Kodama, T., Honda, K., Ohba, Y. and Taniguchi, T.; DAI (DLM-1/ZBP1) is a cytosolic DNA sensor and an activator of innate immune response. (2007). Nature. 448, 501-506
(8) Tamura. T., Yanai. H., Savitsky. D., and Taniguchi. T.; The IRF Family Transcription Factors in Immunity and Oncogenesis. (2008) Annu. Rev. Immunol., 26, 535-584.
30年前のユビキチンシステムの発見を端緒に、全ての真核生物においてユビキチン・プロテアソームシステムによるタンパク質分解があらゆる生命現象に積極的に関与していることが明らかとなってきた。その一方で、生物の進化ともにプロテアソームも進化した。すなわち脊椎動物において主要組織適合抗原複合体(MHC)の出現と時期を一にして、新しいサブユニットを獲得することにより“免疫プロテアソーム”を作りだし、プロテアソームによるタンパク質分解の副産物をMHCクラスI結合ペプチドとしてより適したものへ変換可能とした。またごく最近、我々は脊椎動物特異的な新しいプロテアソームのサブユニットを発見し、胸腺におけるT細胞分化に重要な役割を果たしていることを見出した。本講演では、ユビキチン・プロテアソームシステムの基本メカニズムを概説しつつ、プロテアソームの多様性の生物学的意義、およびこの多様性を支えるプロテアソーム分子集合のメカニズムを紹介したい。
(References)
1. Murata, S., Sasaki, K., Kishimoto, T., Hayashi, H., Niwa, S., Takahama, Y., and Tanaka, K. (2007) Regulation of CD8+ T cell development by thymus-specific proteasomes. Science 316, 1349-1353.
2. Hirano, Y., Hayashi, H., Iemura, S., Hendil, K. B., Niwa, S., Kishimoto, T., Kasahara, M., Natsume, T., Tanaka, K., and Murata, S. (2006) Cooperation of multiple chaperones required for the assembly of mammalian 20S proteasomes. Mol Cell 24, 977-984.
3. Hirano, Y., Hendil, K. B., Yashiroda, H., Iemura, S., Nagane, R., Hioki, Y., Natsume, T., Tanaka, K., and Murata, S. (2005) A heterodimeric complex that promotes the assembly of mammalian 20S proteasomes. Nature 437, 1381-1385
セマフォリンファミリーは、1990年代初頭から発生課程における神経ガイダンス因子として同定されてきた分子群である。近年、器官形成、血管新生、脈管形成、癌の進行などへの関与も報告され、生体の組織構築及び細胞の運命を決定する代表的な細胞外因子の一つと考えられているが、免疫系においても、我々のここ数年の研究により免疫系で機能する一群の分子群(免疫セマフォリン群)の存在が明らかになっている。今回のシンポジウムではセマフォリンクラス7型に分類されるSema7Aと、セマフォリンの代表的な受容体の一つであるPlexin-A1の二つの分子を取り上げ、セマフォリンシグナルの免疫系における役割について紹介する。
Sema7Aはこれまで神経伸長促進作用が報告されていたが、免疫系では役割は不明であった。我々の免疫解析により、活性化T細胞上に発現するSema7Aがα1β1インテグリンを介して単球・マクロファージからの炎症性サイトカイン産生を誘導することが明らかとなった。次にSema7A欠損マウスを用いて生体内での免疫応答におけるSema7Aの役割を検討したところ,Sema7A欠損マウスでは接触性過敏反応や実験的自己免疫性脳脊髄炎の発症抵抗性を認めた。更に皮膚の接触性過敏反応におけるSema7Aの関与の詳細を検討したところ, Sema7Aは局所での炎症反応の誘導に関与していることが明らかとなった。
Plexin-A1はセマフォリンSema6Dの受容体として知られ、免疫系では樹状細胞に特異的に発現している。我々はPlexin-A1の免疫系での役割を明らかにする目的でplexin-A1欠損マウスを用いた解析を行ったところ、Plexin-A1欠損マウスではリンパ節における抗原特異的T細胞のプライミングが障害されており、この障害は樹状細胞の末梢組織からリンパ節へのtraffickingの異常によることが明らかになった。さらにイメージングの手法を用いた詳細な解析により、樹状細胞が微小リンパ管を通過する過程(transmigration)にPlexin-A1が関与していることが明らかとなった。
(参考文献)
1. Suzuki K. et al. Semaphorins and their receptors in immune cell interactions. Nat Immunol. 9:17, 2008.
2. Suzuki K.et al. Semaphorin 7A initiates T-cell-mediated inflammatory responses through 11 integrin. Nature 446, 680, 2007.
3. Takegahara N. et al. Plexin-A1 and its interaction with DAP12 in immune responses and bone homeostasis. Nat Cell Biol. 8, 615, 2006.
4. Kumanogoh A. et al. Nonredundant roles of Sema4A in the immune system: Defective T cell priming and Th1/Th2 regulation in Sema4A-deficient mice. Immunity 22, 305, 2005.
5. H. Kikutani and Kumanogoh A. Semaphorins in T cell-antigen presenting cell interactions. Nat. Rev. Immunol. 3, 159, 2003.
6. Kumanogoh A. et al. Class IV semaphorin Sema4A enhances T cell activation and interacts with Tim-2. Nature 419, 629, 2002.
2種の異なるリンパ球(Bリンパ球とTリンパ球)の存在と抗体産生におけるそれら2つの細胞の相互作用が報告されたのは1968年であった。1970年代の初め我々は活性化されたリンパ球の培養上清中に抗体産生を誘導する分子の存在を報告した。1986年Bリンパ球の抗体産生にかかわる分子の1つが単離され、その構造が明らかとなった。現在IL-6と呼ばれる分子である。
cDNAが単離されリコンビナント分子や抗体を用いた研究から、IL-6は単に抗体産生を誘導するのみならず肝細胞に急性期蛋白産生を誘導する活性や骨髄腫細胞の増殖を誘導する活性をはじめとして多様な生理活性を発揮する分子であることが明らかとなってきた。又、その異常産生は種々の炎症性疾患や血液腫瘍の発症にかかわることも明らかにされた。
我々の一連の研究はIL-6のユニークな受容体構造の解明からシグナル伝達機構の全容の解明へとつながった。一方ではIL-6の受容体に対する抗体を作製してIL-6の異常産生がかかわる種々の疾患の治療へとつなげようとする試みがなされ、我が国最初の抗体医薬が誕生した。
IL-6の異常産生がどのようなメカニズムで種々の慢性炎症性疾患の発症につながるのか、IL-6のシグナルをブロックすることはどのような機構により免疫異常を修復するのかという問いかけは、TH17という新しいTリンパ球サブセットの存在とその分化にIL-6が中心的役割を果たすという最近の発見により新しい局面が展開し始めた。
ここではTH17の分化誘導におけるIL-6の役割、我々が見出した新しい転写因子とSTATの相互作用、TH17の分化誘導にかかわる新たな道筋等について述べる予定である。
参考文献
・Kishimoto, T. Interleukin-6: From basic science to medicine, 40 years in immunology. Annu. Rev. Immunol. 23:1-21, 2005.
・Kimura A., T.Naka and T.Kishimoto. IL-6-dependent and –independent pathways in the development of interleukin 17-producing T helper cells. PNAS vol.104 No.29 : 12099-12104, 2007
・Kimura A, T Naka, K Nohara, Y Fujii-Kuriyama, and T Kishimoto. Aryl hydrocarbon receptor regulates Stat1 activation and participates in the development of Th17 cells. PNAS vol.105 No.28 : 9721-9726, 2008