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第37回 高遠シンポジウム 要旨

『制御系としての生命』

■会場+WEBのハイブリット開催
 現地開催:東京晴海  会場 L stay &  grow Harumi
 WEB開催:Microsoft Teams
   

細胞進化の過程において、真核細胞はどのように誕生し、進化してきたのでしょうか。私は、古細菌と真正細菌の共生によって真核細胞が誕生したとする「細胞内共生説」に着想を得て、線維芽細胞に生きた乳酸菌を添加したところ、細胞が多能性様の性質を獲得することを見出しました。
次に、「乳酸菌の何が細胞に多能性を付与するのか」という問いに着目しました。そこで、mRNA翻訳装置として知られるリボソームを線維芽細胞へ導入し、single-cell RNA-seq、ATAC-seq、ChIP-seqによる解析を行った結果、リボソームが宿主細胞の形質転換を誘導する主要因であることを明らかにしました。
現在、これら一連の細胞形質転換に関与するリボソームタンパク質の同定を進めています。これまでに、複数のリボソームタンパク質が線維芽細胞の形質転換を誘導し、脂肪細胞や軟骨細胞などへの分化を促進することを確認しています。本講演では、細胞形質転換を引き起こすリボソームタンパク質の分子機構に焦点を当て、得られた知見についてご紹介します。

References
Ito N, Katoh K, Kushige H, Saito Y, Umemoto T, Matsuzaki Y, Kiyonari H, Kobayashi D, Soga M, Era T, Araki N, Furuta Y, Suda T, Kida Y, and Ohta K. Ribosome incorporation into somatic cells promotes transdifferentiation towards multipotency. Scientific Reports 8(1), 1634. (2018)
Ohta, K., Kawano, R., and Ito, N. Lactic acid bacteria convert human fibroblasts to multipotent cells. PLoS ONE, 7(12), e51866. (2012)

哺乳類脳皮質には、膨大な数のニューロンを整然と配置した層構造が形成され、複雑な神経回路の正確性と効率を高めている。脳皮質は、発生過程において分裂層で最終分化したニューロンが緻密な神経組織を分け入り大規模に遊走し、機能に従って秩序正しく重層することで形成される。脳皮質構造とその発生機構はマウスからヒトまで基本的に保存されているが、進化の過程でニューロン数が数千倍に増え脳容積が拡大するに伴い、ニューロンの遊走距離も著しく増大した。ニューロンは、細胞膜にかかる外圧から細胞外空間を解読し、アクチン駆動力を切換えながら前進する。また特殊な核ラミナ構造により極めて柔軟な核を自在に変形し、狭い神経組織間隙をすり抜けて隘路遊走する。ニューロンが核の柔軟性を維持して緻密な組織を長距離隘路遊走することは、哺乳類脳進化に必須であったと考えられる。しかし、驚くべきことに、この核変形に伴う機械的ストレスは、発生中のニューロンにDNA二重鎖切断(DSB)を高頻度に誘発することが明らかになった。興味深いことに、このDSBは計画的に遺伝子発現制御領域を避けてレトロトランスポゾンなどの安全なゲノム領域に形成され、直ちに修復されるため、正常発生に影響しない。すなわち、哺乳類脳ニューロンは、皮質形成過程の長距離遊走において致命的ゲノム損傷を回避する機構を独自に進化させたという興味深い仮説が浮かび上がる。ライブイメージング画像でニューロンのダイナミックな遊走過程を紹介し、脳の進化について議論したい。

免疫系は、私たちの身体を病原微生物から守りますが、身体を作っている正常な細胞、分子とは反応しません。では、免疫系は、自己と非自己をどのように区別しているのでしょうか。この“免疫的自己・非自己”を区別する仕組みが分かれば、自己免疫病(関節リウマチやI型糖尿病など、免疫系が間違って自己を攻撃する結果起きてくる病気)やアレルギー(花粉などそれ自体は無害な物質に免疫系が過剰に反応してしまう結果起きてくる病気)の理解が進み、治療・予防が可能になります。また、自己から発生した“自己もどき”である癌細胞に対して強い免疫反応を起こすことが可能となり、移植臓器をあたかも自己臓器として受容させることが可能となるでしょう。私たちと共生している腸内細菌も“自己もどき”であり、健常人では免疫反応が起こりません。免疫反応が起これば炎症性腸炎の原因となります。このような免疫的自己・非自己の弁別に重要なメカニズムとして、私たちの体内には様々な免疫反応を抑制することに特化したリンパ球が存在し、制御性T細胞(Regulatory T cell、略してTreg)と呼ばれます。
Tregは、ヒトも含めて正常動物の末梢CD4+T細胞の約10%を占めています。正常な動物からTregを除去すると、甲状腺炎、I型糖尿病など、ヒトの自己免疫病と酷似した様々な病変やアレルギーが自然に発症してきます。また、腸内細菌に対する免疫反応が惹起されて炎症性腸炎が起きてきます。Tregを補えば、このような異常、過剰な免疫応答を抑制することができます。実際ヒトでも、Tregの量的、機能的異常の結果、重篤な自己免疫疾患、炎症性腸疾患、アレルギーを発症してくる病気があります。また、日本も含めて先進国では感染症の頻度が下がるに従って、近年自己免疫病、アレルギー、炎症性腸炎などの疾患が増えてきています。衛生的な環境では強い免疫反応を起こす必要がなくなり、それに応じてTregの免疫抑制能が弱くなる結果、このような免疫疾患が増えてくるのかもしれません。
一方、がん組織中のTregを除くと、がん細胞に対する免疫応答を惹起・亢進させることが可能で、実際、Tregを標的とするがん免疫療法の臨床応用が進んでいます。反対に、Tregを抗原特異的に増やすことによって、移植臓器の安定的な生着また移植臓器の拒絶反応の抑制が可能です。
本講演では、自己・非自己を区別する免疫の仕組み、そして自己免疫病、アレルギーなどの免疫病、がん、臓器移植、などに対する免疫医療の展望についてお話しします。
16:00~
ポスター発表者によるフラッシュトークとポスター発表

植物は一生を通じて組織や器官を作りながら成長を続ける。また、自ら生育場所を自ら変えることが出来ないため、置かれた環境に適応して器官の形や成長方向を自在に変化させる能力を有している。動物の脳のような中央演算型の情報処理システムや、細胞の移動や集散能を持たない植物が、いかにして組織や器官の形態を維持し環境に応じて作り替えているのか、これは植物発生学の主要な研究課題の1つである。
植物発生学における主要なモデル実験系として、シロイヌナズナの根が広く用いられている。シロイヌナズナの根は植物に普遍的なすべての細胞タイプを非常にシンプルな形で備えており、また細胞の分裂、伸長、分化が起こる場が空間的に分離している。これらの利点を活かすことで、シロイヌナズナの根を用いた研究から、植物の発生や成長制御に通底する基盤的なメカニズムが明らかにされて来た。
一方でシロイヌナズナの根を、環境に応じた動的な発生・成長制御の研究に利用するには大きな技術的障害があった。根の環境受容や成長駆動系が集約されている根端が、根の伸長に伴って速やかに移動してしまうため、長時間かつ高倍率な連続観察ができないという問題である。我々は、この課題を解決するため、重力方向に沿って垂直に伸長するシロイヌナズナの根端を自動的に追尾しながら、その内部の3次元動態を、時間軸に沿って高い解像度でイメージングするための顕微鏡システムを開発した。また得られた膨大な4D画像データから、細胞核の分裂状態や位置を自動的にセグメンテーションするAIツールや、反復的な細胞分裂が生み出す細胞系譜を自動的に紐づけるアルゴリズムを開発した。本講演では、これらの可視・定量化ツールを導入することで初めて見えて来た、根の自在な成長を支える分子と細胞のダイナミクスや、それらの背後にある遺伝的制御機構について紹介したい。

オートファジーは真核生物に保存された基本的な細胞内分解システムであり、分解対象はタンパク質、脂質、核酸、糖鎖、オルガネラ、細菌など、種類もサイズも多岐に渡る。この万能的な分解能力は、オートファゴソームと呼ばれる一過性の膜オルガネラの新生が支えており、オートファゴソームに隔離されたものは原則すべてリソソームへと輸送され分解される。我々はin vitro再構成、構造生物学、酵母および哺乳類細胞を用いた細胞生物学を組み合わせた解析を進めることで、オートファゴソーム新生を駆動する分子メカニズムの解明を進め、1)オートファジー誘導時はATGタンパク質群が相分離して集合し液滴構造を形成すること、2)ATG液滴でユビキチン様タンパク質ATG8/LC3の脂質化が促進し、その結果オートファゴソームの種となる膜小胞がATG液滴内に取りこまれ、隔離膜と呼ばれる前駆体膜の形成に使われること、3)脂質輸送タンパク質と脂質スクランブラーゼが協力して働くことで小胞体から隔離膜への脂質の大規模輸送が行われ、隔離膜がオートファゴソームへと成長することを明らかにしてきた。本講演ではこの一連のメカニズムについて、特に相分離の役割を中心に紹介する。

References
1) Fujioka, Y., Alam, J. M., Noshiro, D., Mouri, K., Ando, T., Okada, Y., May, A. I., Knorr, R. L., Suzuki, K., Ohsumi, Y. and Noda, N. N. Phase separation organizes the site of autophagosome formation. Nature 578, 301-305 (2020).
2) Fujioka, Y., Tsuji, T., Kotani, T., Kumeta, H., Kakuta, C., Shimasaki, J., Fujimoto, T., Nakatogawa, H. and Noda, N. N. Phase separation promotes Atg8 lipidation and vesicle condensation for autophagy progression. Nat. Struct. Mol. Biol. 32, 2285-2295 (2025).
3-1) Osawa, T., Kotani, T., Kawaoka, T., Hirata, E., Suzuki, K., Nakatogawa, H., Ohsumi, Y. and Noda, N. N. Atg2 mediates direct lipid transfer between membranes for autophagosome formation. Nat. Struct. Mol. Biol. 26, 281-288 (2019).
3-2) Matoba, K., Kotani, T., Tsutsumi, A., Tsuji, T., Mori, T., Noshiro, D., Sugita, Y., Nomura, N., Iwata, S., Ohsumi, Y., Fujimoto, T., Nakatogawa, H., Kikkawa, M. and Noda, N. N.. Atg9 is a lipid scramblase that mediates autophagosomal membrane expansion. Nat. Struct. Mol. Biol. 27, 1185-1193 (2020). 

キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterは、ヒトとは形態的にも生態的にも大きく異なるモデル生物である。しかし、この小さな昆虫は、発生や生理を支える進化的に保存された基本原理の解明に大きく貢献してきており、現在も新たな生命現象や制御機構を見出すための重要な研究材料であり続けている。本講演では、ショウジョウバエとその寄生蜂を用いた研究を通じて明らかとなった、液性因子による動物の発生と生理の制御に関する我々の最近の二つの研究成果を紹介する。
前半では、昆虫におけるカルシウムイオン恒常性の制御機構について述べる。昆虫は脊椎動物のような骨や副甲状腺ホルモンを持たないにもかかわらず、体液中のカルシウムイオン濃度を厳密に維持している。我々は、ショウジョウバエの遺伝学を駆使して、カルシウム貯蔵器官と、そこからのカルシウム動員に必要な神経ペプチドを同定し、昆虫における新たなカルシウム恒常性維持機構を明らかにした。
後半では、ショウジョウバエに寄生する寄生蜂が持つ毒タンパク質による宿主発生・生理の操作機構について紹介する。寄生蜂は宿主の栄養を利用して生活するハチ目昆虫であり、昆虫類約100万種の約20%を占めると推定される、地球上で最も繁栄している生物群の一つである。しかし、試料の小ささや飼育の困難さから、寄生蜂の寄生戦略を支える分子機構には未解明な点が多い。そこで我々は、ショウジョウバエ寄生蜂Asobara japonicaをモデルとして研究を進めてきた。その結果、最近我々は、宿主ショウジョウバエの発生を巧みに操作する毒タンパク質を同定した。現在、この毒タンパク質の作用機序と、多様なショウジョウバエ種およびAsobara属寄生蜂における毒タンパク質およびその作用機構の進化を明らかにするべく、比較解析を進めている。

References:
1.         Okamoto N, Mizuno Y, Watanabe A, Kohsaka H, Niwa R. Neuroendocrine control of calcium mobilization in the fruit fly. Nature 649: 122–130, 2026. doi: 10.1038/s41586-025-09670-z
2.         Kamiyama T, Shimada-Niwa Y, Mori H, Tani N, Takemata-Kawabata H, Fujii M, Takasu A, Katayama M, Kuwabara T, Seike K, Matsuda-Imai N, Senda T, Katsuma S, Nakamura A, Niwa R. Parasitoid wasp venoms degrade Drosophila imaginal discs for successful parasitism. Science Advances 11: eadq8771, 2025. doi: 10.1126/sciadv.adq8771

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