お知らせ 開催スケジュール
第36回 高遠シンポジウム プログラム(演者/演目/要旨)
『生命のゆらぎと調和』
■1日目■
13:05~
岩井 一宏 先生
京都大学理事 副学長 / 京都大学 大学院医学研究科 細胞機能制御学
鉄代謝・動態調節機構の観点からのフェロトーシス研究で明らかになったこと
我々は鉄代謝・動態調節機構の研究に従事してきたので、鉄毒性の観点からのフェロトーシス研究に着手した。そこでまず、これまで報告がなかった培地への鉄添加によって死滅する細胞を樹立し、同細胞を用いて鉄依存的な細胞死を指標としたCRISPRスクリーニングを施行した。同スクリーニングでは多価不飽和脂肪酸の膜への挿入に寄与する遺伝子群をはじめとしてフェロトーシスへの寄与が報告されている分子が数多く含まれていたが、これまでに寄与が報告されていない多くの鉄依存的フェロトーシス誘導因子、抑制因子も数多く含まれていた。それらの分子の機能解析を進め、新たにフェロトーシス抑制因子として同定したPPRDX6が細胞内のセレン運搬タンパク質として機能することでフェロトーシスを抑制することを明らかにしている。時間が許せば、本講演では我々が推進しているフェロトーシスと老化に関しても議論したい。
References
1.Fujita, H., Tanaka, Y.-K., Ogata, S., Suzuki, N., Kuno, S., Barayeu, U., Akaike, T., Ogra, Y., and Iwai, K. PRDX6 augments selenium utilization to limit iron toxicity and ferroptosis. Nat. Struct. Mol. Biol. 31(8):1277-1285, 2024. doi: 10.1038/s41594-024-01329-z.
2.Kuno, S., and Iwai, K. Oxygen modulates iron homeostasis by switching iron-sensing of NCOA4. J. Biol. Chem. 299(5):104701, 2023.
14:00~
秋山-小田 康子 先生
JT生命誌研究館 細胞・発達・進化研究室 / 大阪医科薬科大学
オオヒメグモから考える動物の発生メカニズムの進化
References
Akiyama-Oda Y., Akaiwa T., and Oda H. (2022). Reconstruction of the global polarity of an early spider embryo by single-cell and single-nucleus transcriptome analysis. Front. Cell Dev. Biol. 10:933220. doi: 10.3389/fcell.2022.933220.
Akiyama-Oda Y. and Oda H. (2020). Hedgehog signaling controls segmentation dynamics and diversity via msx1 in a spider embryo. Sci. Adv. 6: eaba7261.
Oda H. and Akiyama-Oda Y. (2020). The common house spider Parasteatoda tepidariorum. Evodevo 11:6. doi: 10.1186/s13227-020-00152-z.
14:55~
荒瀬 尚 先生
大阪大学 免疫学 フロンティア研究センター / 大阪大学 微生物病研究所
T細胞のセルフとネオセルフの識別能と自己免疫疾患
ポスター発表者によるフラッシュトークとポスター発表
■2日目■
09:00~
深津 武馬 先生
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 / 東京大学 大学院 / 筑波大学 大学院
共生・進化・生物多様性
大部分の生物が、恒常的もしくは半恒常的に微生物を体内に保有しています。このような状況を「内部共生」といいますが、きわめて高度な相互作用や依存関係がみられ、しばしば新しい生物機能の創出を伴います。共生微生物と宿主生物がほとんど一体化して、あたかも1つの生物のような複合体を構築する場合も少なくありません。
本講演では特に昆虫類の適応進化と内部共生の関わりについて、その多様性、相互作用の本質、進化的な意義、応用利用への展開の可能性など、基本的な概念から最新の知見まで、私たちの研究成果を中心に紹介いたします。
09:55~
野田口 理孝 先生
京都大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 植物生理学講座
どんな植物でもつながる異科接木の謎に迫る
接木は、植物科学にも植物の生理をとらえる重要な場面で登場してきた。例えば、花を咲かせる分子であるフロリゲンは、接木実験により同定された。生物は、一日の昼夜の長さを計測することで季節を知ることができ、季節に応じて性質を変えることを光周性と呼ぶが、植物が季節に応じて花をつけることができるのはこのためである。この光周性に基づく花づくりの開始は、フロリゲンと呼ばれるホルモン様の分子(実際は約20 kDaのFTタンパク質)が昼夜を計測した葉でつくられ、それが葉から茎の先端にある植物の分裂組織に運ばれることで起こると考えられた。この根拠となったのが、異なる季節に花をつける二つの植物を接木すると、間違った季節でも片方の相手につられてもう片方の植物が花を咲かせてしまうという古典的な生理学実験であった。今ではフロリゲン遺伝子あるいはフロリゲンタンパク質を働かせることで、植物の生殖時期を制御する技術につながっている。
接木は、植物が体の一部が傷ついた際に、傷口の組織再生により傷を修復するために備えた本来の能力を利用した技術である。組織再生は、細胞の脱分化にはじまり、細胞増殖、細胞接着、細胞間コミュニケーション、そしてそれぞれの組織への細胞分化が適切な場所ですみやかに行われる必要があり、そのため生物システムが類似した近縁種の間でなければ互いの組織を接合する接木は難しいというのが、二千年以上にわたる人類の接木体験に基づく常識であった。しかし、生物の多様性には目を見張るものがある。ある種の植物には、近縁種どころか、異なる属の植物、異なる科の植物とも広く接木を成立させてしまう能力があることを、偶然にも研究の中で見出した。なぜ、そのようなことが可能なのか。これまでに得られた知見をお話しする。
10:50~
小川 誠司 先生
京都大学 大学院医学研究科 腫瘍生物学講座
正常組織における体細胞モザイクと発がん
*時間は予告なく変更になる場合がございますので、予めご了承ください。
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