開催スケジュール

次回開催予定

第35回高遠分子細胞生物学シンポジウム

多様な生命の相互作用:進化から疾患まで

2024年08月26日(月)~27日(火)

東京晴海にてハイブリット開催。

■受付終了いたしました■

開催概要

テーマ 多様な生命の相互作用:進化から疾患まで
開催期間 2024年08月26日(月)~27日(火)
申込締切日 2024年07月05日(金)
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プログラム

2024/08/26~2024/08/27

植物内/植物間コミュニケーションを可視化する
豊田 正嗣 先生 [埼玉大学大学院 理工学研究科 サントリー生命科学財団 華中農業大学 植物科学技術学院]
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道端に生えている草。畑で育てられている野菜や花。雨に打たれても、風に吹かれても、虫にかじられても、その場所でじっとしています。物言わぬ植物は、何も感じていないのでしょうか。何もしていないのでしょうか。
 近年、バイオセンサーやイメージング技術の発展を背景に、植物の驚くべき環境刺激感知・情報伝達能力が見えてきました。植物には神経や脳はありませんが、イオンチャネルやカルシウムシグナリングなどの動植物に進化的に保存された仕組みと、師管や気孔などの植物特有の組織や構造を組み合わせることで、様々な刺激を鋭敏に感じて、高速かつ高度に情報処理をしていることがわかってきたのです。
 本シンポジウムでは、「植物がどのような仕組みを用いて、虫にかじられたことを感じて、その情報を瞬時に全身に伝えているのか」について、その分子機構を紹介します。さらに、聴覚や視覚、嗅覚などの特殊な感覚をもたない植物が「どのようにして個体間で互いに情報のやりとり(コミュニケーション)をしているのか」についても説明します。
動植物の垣根を越えた生体内および個体間コミュニケーションの新展開を、最新のイメージング技術で可視化された映像と共に概説します。

新型コロナウイルスの進化:Now And Then
佐藤 佳 先生 [東京大学 医科学研究所 感染・免疫部門システムウイルス学分野]
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新型コロナウイルスの発生当初からこれまで、演者は、国内外の若手研究者有志と協力し、研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」を組織し、新型コロナウイルス変異株の特性の理解に向けた学際研究をリアルタイムに展開してきた。本講演では、新型コロナウイルスについて、これまでの研究からわかってきたことを概説するとともに、これからの研究と流行の展望、将来の新興再興ウイルス感染症への備えとしての研究のあり方、そして、研究機関や専門領域をまたいだ学際的な共同研究、コンソーシアム研究のあり方などについて広く議論したい。

炎症性微小環境、三次リンパ組織と腎臓病
柳田 素子 先生 [京都大学 大学院医学研究科 腎臓内科学]
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三次リンパ組織は、非リンパ臓器に後天的に形成し、獲得免疫の起点となる炎症性微小環境であり、その内部ではT細胞、B細胞が活性化・増殖します。私達は以前、高齢個体の障害腎に「三次リンパ組織」が形成されることで、炎症が遷延し、修復が遅延することを見出しました。三次リンパ組織は三つのステージを介して成熟しますが、ヒト腎でもマウス腎でも背景腎に炎症や障害があると、より進行した三次リンパ組織が形成されます。さらに、三次リンパ組織の拡大には、加齢に伴って出現する老化関連T細胞と老化関連B細胞間のCD153-CD30シグナルが必須であることを報告しました。一方で、三次リンパ組織は顕著な炎症性サイトカイン産生を介して周辺の近位尿細管や內部の線維芽細胞に炎症性形質を付与し、これらの炎症性実質細胞がさらに三次リンパ組織の拡大に寄与することを見出しました。さらに、近年、3次リンパ組織形成における特徴的な代謝変容があることも明らかにしています(未発表)。
さらに三次リンパ組織は加齢腎のみならず、種々の進行した腎臓病で形成されることも明らかになってきました。私達は移植腎のプロトコール腎生検を解析し、移植1ヶ月後に約半数の症例で三次リンパ組織が確認できること、移植1年後には、ステージII三次リンパ組織が約20%の症例に確認され、同群は5年後の腎予後が悪いことを見出しました。さらに三次リンパ組織は腎臓病のみならず、種々の自己免疫疾患でも形成され、予後不良と関連する一報で、がんや感染症では予後良好と関連することも知られており、その病態における意義が注目されています。

サバからマグロは産まれるか?基礎科学と応用科学の橋渡し
吉崎 悟朗 先生 [東京海洋大学 水圏生殖工学研究所]
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寿司や刺身の食材として人気が高いクロマグロ(本まぐろ)にはタイセイヨウクロマグロ、タイヘイヨウクロマグロ、ミナミマグロの三種類がいるが、このうちミナミマグロは絶滅危惧種に、タイヘイヨウクロマグロは準絶滅危惧種に指定されている。これらの資源量を増やすためには養殖が有効な解決策となりうるが、クロマグロ類は成熟までに3-5年を要するうえ、成熟時の魚体重は60-100kgにも達する。したがって親魚の維持には莫大なコストや巨大な施設、さらには長い時間を要する。そこで演者らは小型のサバ科魚種を代理の親に用いてクロマグロの配偶子を短期間で生産する系の構築を目指した。これはクロマグロの生殖幹細胞を異種の小型宿主に移植することで実現できると考えた。
 クロマグロの研究を始める以前に、演者らはサケ科魚類を材料にいくつかの基礎的知見を得ていた。これらは1)ふ化直後の仔魚は免疫系が未熟であり、異種由来の細胞を拒絶する能力が低いこと、2)成魚の生殖巣から調整した生殖細胞集団を仔魚の腹腔内に移植すると、移植された細胞は宿主の未熟生殖腺へと移動し、そこに取り込まれ配偶子形成を開始すること、3)この際、ドナー細胞を雌雄の何れから単離した場合でも、移植細胞は宿主の性にしたがって卵か精子を生産すること、4)三倍体等の不妊個体を宿主に用いると、宿主が成熟した際にはドナー由来の配偶子のみを生産することである。
 現在までにこれらの知見を組み合わせることで、スマとよばれる亜熱帯産の小型種(成熟時の体重は1kg程度)を宿主に用いることで、クロマグロの精子をわずか8ヶ月で生産することに成功している。さらに、得られた精子が正常な運動能や受精能を保持していることを確認している。現在は小型宿主を用いたクロマグロ卵の生産に挑戦中である。本講演ではここに至るまでの道程を紹介する。

ゲノムデータサイエンスがもたらす糖尿病の精密医療の可能性
鈴木 顕 先生 [東京大学 医学部附属病院 糖尿病・代謝内科]
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2型糖尿病は慢性的な高血糖により全身臓器の合併症を引き起こす疾患であり、遺伝要因とそれ以外の環境要因の双方が発症に関わる。演者らは日本人集団において20万人規模の2型糖尿病ゲノムワイド関連解析(GWAS)を行い、28の2型糖尿病に関連する遺伝子領域を同定した。膵β細胞の障害を特徴とする単一遺伝子糖尿病の分子経路が日本人集団と欧米人集団の両方で2型糖尿病と最も強く関連する一方、インスリン分泌経路は日本人集団の方が2型糖尿病と強く関連することを示した。
また、東アジア人集団における国際共同研究によるGWASメタ解析では、日本人集団における2型糖尿病GWASが症例数の半数近くを占め重要な貢献を果たした。本研究ではアルコール代謝に関わり、進化における自然選択の淘汰圧が存在するALDH2領域に2型糖尿病発症リスクの男女差があることなどが明らかとなった。
世界最大の糖尿病ゲノムコンソーシアムType 2 Diabetes Genomics Initiative (T2DGGI)では、250万人規模の多民族GWASメタ解析を実施し、661領域に存在する1,289の独立した2型糖尿病シグナルを同定し、各2型糖尿病シグナルが心血管代謝形質に与える影響に基づき8つのクラスターに分類した。1,289シグナルの内、127シグナルは祖先集団間で2型糖尿病に対するリスク上昇効果が有意に異なった。特に、インスリン分泌に関わるクラスターはアフリカ、ヨーロッパ系集団と東アジア系集団とで効果が異なった。各コホートの対照群症例の肥満度(body mass index)により補正すると、祖先集団間での効果が異なるシグナルは127から24に減少し、祖先集団間の違いの多くは肥満度の違いにより説明される可能性が示唆された。一細胞オープンクロマチン解析との統合解析により、膵島細胞、脂肪細胞、腸管内分泌細胞、血管壁細胞、脳神経細胞などに特異的なクラスターが明らかになった。クラスター別のポリジェニック・リスク・スコア解析では、インスリン低下・プロインスリン上昇クラスターが冠動脈疾患や糖尿病性腎症5期と負の関連を示し、肥満クラスターは正の関連を示した。
これらの知見は、2型糖尿病とその合併症の病態解明や2型糖尿病のprecision medicineに貢献することが期待される。

転写後制御機構の破綻による発がん機構の解明と治療応用
井上 大地 先生 [大阪大学大学院 医学系研究科病理学講座および生命機能研究科(がん病理学)]
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2人に1人ががんになる超高齢化社会を迎え、がんの病態理解や加齢に伴う前がん病変へのアプローチは喫緊の課題である。例えば、加齢による血液細胞のクローン多様性の喪失は、がんだけでなく動脈硬化・心不全・骨粗鬆症など様々な全身性疾患の強いリスク因子となり、がんの元となる細胞のより深い理解が求められている。特にこれらの細胞において、遺伝情報の発現がどのように脱制御されるのか、その機構の解明は重要な命題のひとつである。
 1958年にフランシス・クリックが提唱したセントラルドグマの概念は今なお分子生物学の基軸となっているが、それらを彩る新機構が近年次々と明らかとなり、がん研究においても古くて新しい課題として立ちはだかっている。歴史的にはDNA(ゲノム)や染色体レベルでの「情報の書き換え」ががんの原因と考えられてきたが、われわれは、転写後RNAレベルで遺伝情報が歪められる現象や非コード領域の意義について、がん横断的に捉えてきた。特に、pre-mRNAからmRNAへと精製されるRNAスプライシングの過程に異常が生じた場合、発現量やその質が大きく変化することをヒト検体・生体モデル・CRISPRスクリーニング等を用いて明らかとしてきた。その中にはクロマチン制御や転写因子など転写そのものを調節する分子も含まれおり、RNAレベルでの異常を起点としてセントラルドグマを遡って、他の重要な遺伝子の転写を支配するといった新しいがん病理を見出している。また、全イントロンのわずか0.3%のみを構成する「マイナーイントロン」がシグナル制御やストレス応答において大役を担っており、同イントロンのスプライシング因子の変異やイントロン配列のわずかな変化によって生じる制御破綻ががんのドライバーとなることも解いてきた。さらに、このような希少イントロンは進化的に重要な遺伝子のみに保存され、ストレス耐性などを介して、がんだけでなく生命の進化・寿命などにおいて不可欠な役割を果たすことを見出している。
 上述の通り、遺伝情報の書き換えだけでなく、コード領域以外のイントロンの制御機構、とりわけ転写後レベルでの情報調節の重要性・必然性の謎が次第に解けてきたが、本シンポジウムではスプライシング関連遺伝子変異がもたらす発がん機構を中心に、RNAメチル化やRNA輸送に至るまでメカニズムに基づいた治療応用の可能性まで含めて概説する。

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